2014年6月 2日 (月)

【文庫】法医昆虫学者の事件簿

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マディソン・リー・ゴフ/垂水雄二訳
文庫/288頁/定価(本体900円+税)


◆捕虫網を持って、殺人現場に向かう。新しい犯罪捜査の手法「法医昆虫学」
 カラカラに乾ききったグランドキャニオンの谷で、二つの溺死体が発見された。砂漠で溺死体が発見されたのである。男と女、二人の死体は三〇メートルほど離れて横たわっており、女のほうは足に怪我をしていた。ハエが死体に卵を産みつけていて、卵から孵ったウジは死体をむさぼりはじめていた……。この二人はどのようにして、砂漠で溺れ死んだのだろうか?
 この事件の手がかりは、死体についたウジにありました。ウジたちを死体から採集し、分析することで、二人が砂漠で溺れ死んだ理由を知ることができたのです。
 本書は、新しい犯罪捜査法「法医昆虫学」を、著者の経験を中心とした実際の事件を例にとりながら紹介する本で、二〇〇二年に刊行された『死体につく虫が犯人を告げる』の文庫版。法医昆虫学とは、死体についた虫を採集・分析して死亡時刻の推定をはじめとする重要な手がかりを得るという、犯罪捜査の手法のことで、一九八〇年代からアメリカで本格的な研究がはじまった新しい分野です。
 法医昆虫学が死亡時刻を推定する能力は非常に強力で、捜査官を驚愕させるほどの正確さを発揮します。さて、その推定方法とはどのようなものなのでしょうか?

◆法医昆虫学は驚くべき確度で死亡時刻を推定する
 野外に放置された死体には、気温などの条件さえ整っていれば死後一〇分以内にハエがやってきて卵を産み、卵から孵ったウジは死体を食べて成長します。あまり語られることはありませんが、死後数日ともなれば、おびただしい数のウジが体内で集塊を形成しながら死体の組織を食べるのです。すると、そのウジを捕まえて食べる虫たちもやってきて死体にとりつきます。さらに時間がたてば、死体は乾燥してかたくなり、ウジはもう死体を食べることができなくなります。そうなると今度は、乾燥してかたくなった組織を食べる虫がやってきて死体にとりつきます。そのころには、ウジは死体から去って蛹や成虫になっています。
 このように死体の上の虫たちは成長し、移り変わっていくのですが、その過程はいつもほぼ同じで、周囲の温度との関係をみれば成長や変化のスピードも予測することができます。つまり、死体につく虫を知り尽くした昆虫学者であれば、その虫たちを分析することによって死亡時刻を知ることができるのです。その推定の正確さは、死体の腐乱徴候だけから推定する場合とは比べものにならないほどで、本書には、発見数日前に殺された遺体の死亡時刻を犯人の自白と一時間程度の誤差で推定し、捜査官を絶句させた話も出てきます。冒頭に上げた、砂漠で発見された溺死体の事件でも、この方法で死亡時刻を推定したところ、ちょうどその時刻に山奥で降った大雨により鉄砲水が発生していたことがわかり、二人が溺れ死んだ謎が解けました。

◆ブラックユーモアで語られる数々の殺人事件
 本書の魅力は、紹介される実際の事件の豊富さにあるでしょう。頭蓋骨の中にアリの巣があった白骨遺体の話、生前に摂取したコカインの影響によって死体についたウジが異常な速さで成長した話など、恐ろしくも興味深い事件が次々に紹介され、それぞれが法医昆虫学によって見事に解決されていくのです。なかには、生きながらウジに食われ死んでいった寝たきり老人の話のような、ひどく悲惨な事件も登場します。著者は、その悲惨さから自分の精神を守るため、ブラックユーモアを使い、科学者としての冷静な態度を保ちつづけます。しかし、犯罪への静かな怒りも捨て去ることはできない……。本書は、死体から虫を採集し分析するという仕事を生業とする人間の、奮闘と苦悩を描いた本でもあるのです。
 素晴らしい能力を持つ法医昆虫学ですが、残念ながら日本ではほとんど犯罪捜査に使われていないようです。本書はミステリー好きの方に楽しんでいただきたいのはもちろんのこと、法医学や昆虫学、生物学に興味のある方にも読んでいただき、日本でも法医昆虫学の研究が行われるようになるきっかけになれば、と思っています。

 著者紹介
 マディソン・リー・ゴフ Madison Lee Goff
 一九四四年生まれ。ハワイ大学マノア校昆虫学教授を二〇〇一年に退職した後、現在ではホノルルのチャミデード大学の名誉教授。法医学プログラムの管理責任者として、法医昆虫学だけでなく、法医学全般および昆虫学全般を教えている。また、クアンティコのFBIアカデミーでも、遺体の検査と回収の方法を指導している。アメリカ法医昆虫学評議会の設立メンバーの一人。

 

2014年5月21日 (水)

間違いだらけのLCC(格安航空)選び

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杉浦一機著
四六判/並製/264頁/定価(本体1600円+税)

どの社をどのように利用すればいいか、コツと注意点を紹介
 このところ急増しているLCC(格安航空)ですが、相次いでパイロット不足の問題が生じたりと、新しい交通サービスだけに不安で分かりにくい要素があるようです。安価の代償に安全性は大丈夫か、アクセスのしやすさやサービスはどうか。大手航空会社にはなかったメリットとデメリットが、しかし一般の利用者にはなかなかわかりにくいのが現状でしょう。
 航空アナリストの第一人者である著者が、利用者の立場に立った賢い利用法をわかりやすくまとめたのが本書です。大手会社と何が違うのか。どんな利点を享受して、どんなリスクを了解すべきか。実際の「試乗記」も収録し、後半では日本でりようできるLCC17社それぞれの詳細情報も掲載しました。LCCの最大の利点は、飛行機を使った移動がどんどん手軽になること。世界がどんどん狭くなる便利さを充分に楽しむための、基礎知識が満載された一冊です。

低コストを実現する「新しいビジネスモデル」としてのLCC
 また、同時にLCCはさまざまなアイデアをもとに「低コスト経営」を実現させる「新しいビジネスモデル」でもあります。LCC(ロー・コスト・キャリア)とはじつは「低価格」ではなく「低コスト」なのです。コスト低減を実現できるから低価格のサービスが実現でき、新しい顧客を獲得できる、まさに現代的な新しいビジネスモデルなのです。本書は利用者の立場に立ちつつ、同時に新しい時代の新しい経営手法の可能性をLCCに見いだしています。利用者のみならず、すべてのビジネスマンにとって非常に興味深い情報を提示しているのが本書です。

2014年5月14日 (水)

遅い光と魔法の透明マント
――クローキング、テレポーテーション、メタマテリアルを実現した光の科学の最先端

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シドニー・パーコウィッツ著 阪本芳久訳
46判/並製/240頁/定価(本体1,800円+税)

◆「透明人間」が物理学の重要研究テーマに! 自転車並の速さの光が実現!
  いま、光の科学がビックリするほど進んでいる!

 光といえば、科学というものがはじまったいにしえの時代から、ずっと研究の対象とされてきたもので、ニュートンもアインシュタインも、その実体の解明に大きな貢献をしました。それほど昔から研究されている光について、いまもまだ驚くような新しい発見が次々と起きているとは、信じられないかも知れません。しかし、光の科学は、科学界全体の中で見ても、いま最も大きく進展している分野の一つと言えるのです。
 たとえば、光を自転車並の非常にゆっくりとした速さに減速させたり、完全に停止させたりすることが、最近可能になりました。さらには、光を特殊な物質で曲げて人や物を完全に隠せる「透明マント」が実現可能であることが理論的に証明され、その実現のための技術開発がいま、着々と進んでいます。従来のコンピュータでは事実上不可能だった計算を一瞬で成しとげる、光を使った量子コンピュータや、光の波長以下の大きさのウイルスやタンパク質まで、光を使って見ることができるスーパーレンズの開発もすすめられています。
 20世紀にはコンピュータを中心とした「電子技術」が世界を大きく変えてきましたが、21世紀の世界を変貌させるのは「光の科学技術」なのかも知れません。

◆光の科学を専門とする物理学者が、古今のSFと比較しつつ、最新の光科学を紹介!
 本書は「光とはそもそも何なのか」というところから説き起こし、透明化技術、超光速移動、量子テレポーテーション、量子コンピュータ、超強力レーザーなど、ワクワクするトピックを幅広く扱いますが、どれもが正真正銘の最先端科学で、光を専門とする物理学者である著者がわかりやすく解説します。
 とはいえ、これらのトピックはSF作品の中でも非常に人気のあるもの。たとえば「透明化」は、『透明人間』や『ハリー・ポッター』、『ロード・オブ・ザ・リング』、『スタートレック』など、さまざまな作品に登場します。本書では、現実の光の科学技術を単に紹介するだけでなく、どのくらいSFに近づいているかを検証したり、あるいはSFの設定を実現することがなぜ難しいかを解説したりと、最先端の光科学とSF作品の技術とを比較しているのも、面白いところです。なかには、現実の技術がSF作品の設定を凌駕している場合もあって、ビックリさせられることでしょう。
 科学技術は、どの分野も均等に前進しているわけではありません。いま現在、最も進展している分野は何か、と問われれば、その中に「光の科学」が入ることは間違いなし。科学のいまを知るためにも、ぜひ読むことをオススメしたい一冊です。  

できる人はダラダラ上手
――アイデアを生む脳のオートパイロット機能

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アンドリュー・スマート著 月沢李歌子訳

四六並製 本文224ページ
価格 (本体1500円+税) 


何もしないで脳を安静にする時間が多い人ほど、
ひらめきの瞬間も多くなる。

すぐれた発見や芸術作品は、クリエイターたちの思索にふける時間があってはじめて生まれてきた。しかし現代人は、「効率」と「創造性」という相反する命題の両立を求められ、時間管理やマルチタスクで対応しようとして過重労働の罠にはまっている。その悪弊は、子どもにも広がり、成長に必要なのんびりする時間が奪われている。
本書は、無為に過ごすことの効用と、効率重視の不健康さを、脳のオートパイロット機能(デフォルトモードネットワーク)など、最新の脳神経科学や複雑系、心理学、哲学など、幅広い観点からとらえた北欧の研究者によるユニークな一冊。

[著者紹介] アンドリュー・スマート(Andrew Smart) スウェーデン出身の神経科学研究者。
ルンド大学で脳神経科学を学び、ADHD(注意欠陥多動性障害)の子どもの記憶に関する研究に携わったほか、米ニューヨーク大学研究員として言語処理における脳の画像イメージングの分析に携わる。本書がはじめての書き下ろしとなる。

[訳者紹介] 月沢李歌子(つきさわ・りかこ) 翻訳家。津田塾大学卒。外資系投資顧問会社勤務から翻訳家に。訳書に『営業の赤本』(日経BP社)『スターバックス再生物語』(徳間書店)ほか。

2014年4月18日 (金)

加工食品には秘密がある

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メラニー・ウォーナー著/楡井浩一訳
四六判/並製/304頁/本体1850円

食卓に欠かせない「加工食品」の驚きの実態を
綿密な取材をもとに客観的に解き明かす

 フォーチュンやニューヨークタイムスで活躍する女性記者が、さまざまな加工食品の「製造現場」を綿密に取材して書きあげた驚きのノンフィクション作品。
 賞味期限を過ぎても腐らない食べ物への疑惑から説き起こし、「白い粉だらけ」の加工食品見本市、腐らないチーズ、栄養がありそうでないシリアル、植物由来ではないビタミン添加物、管理当局が追いつかない厖大な食品添加物、工業製品としての植物油、食欲をそそる香料の秘密など、さまざまな情報を紹介する。
 その筆致は、糾弾や暴露するような厳しさはないが、圧倒的な事実が並んでいくことに、はじめは笑いを誘いつつもやがて背筋が寒くなってくるはず。
 本書を通じてみえてくるのは、加工食品業界が、効率優先・ビジネス優先の志向性にのって先端技術を投入することで「新しい食品」を次々と生み出していることと、その食品の安全性、健康への影響などの検証が追いついていない現状だ。
 また本書でわかってくるのは、人間が食べ物をどのように体に摂りいれているか、その機構はじつはまだよくわかっていない、ということ。たとえば食物繊維は内臓の浄化のみならず、消化の速度をあえて遅らせるという意味もあるようだ。加工食品業界ははたして、人間の消化機能をしっかりとふまえて食品をつくっているのか。
 いつまでも腐らないディップの話、そして、放置しておくと「液体」になったチキンナゲットの話が本書には出てくる。いったい、私たちが食べているものの正体は何なのか。あふれかえる加工食品の数に比して、その実態についての情報はまだ豊富とはいえない。あらゆる消費者にぜひ読んでいただきたい一冊である。

考える力がつく算数脳パズル 迷路なぞぺー

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高濱正伸(花まる学習会代表)・川島慶(花まる学習会)著
B5判/並製/112頁/定価1,188円

◆佐賀県・武雄市の官民一体校と提携、注目の花まる学習会・高濱氏による「なぞぺー」最新作!
 2014年4月17日、花まる学習会と佐賀県武雄市は、同市の官民一体型小学校の開設にあたって、提携することを発表しました。公教育に民間の学習塾である「花まる学習会」のノウハウを取り入れるということで、これまでにない試みとして大変おおきな注目を集めています。その発表記者会見においては、「メシを食える大人を育てる」「生き抜く力を養う」といった理想が熱く語られました。しかし、その理想を実現する具体的な方法はいったいどのようなものなのでしょう……。
 その答えは、「なぞぺー」に凝縮されていると言ってよいでしょう。「なぞぺー」は官民一体型小学校で指導に取り入れられる重要な要素とされています。その本書は『考える力がつく算数脳パズルなぞぺー①②③』からはじまり、累計で11タイトルめとなる「なぞぺー」シリーズ最新刊です。

◆考えることが好きになる! 子どもだけでなく、大人もはまること間違いナシの楽しさ!
 大人でも、本書をはじめとする同シリーズの問題を少しでも解いてみれば、そこに確かに思考力を鍛える核となるものがあると実感できるでしょう。また、それだけでなく、その面白さに魅了されるはず。その魅力には秘密があるのです。
 数理思考パズルである「なぞぺー」は、もちろん思考力を鍛えるために作られていますが、それ以上に、解くこと・考えることを楽しいと感じさせることを目的にしています。そのため、著者らは指導の現場で「なぞぺー」を使いながら、子どもたちのやる気、達成感の感じ方、どんなところで引っ掛かるか、解くことを楽しんでいるかどうかなどの反応を細やかに見て、問題を作り直したり、ダメなものはボツにしたりしています。「なぞぺー」はその魅力を教育の現場で鍛え上げ、選別されてきた問題なのです。
 本書『迷路なぞぺー』の問題も、花まる学習会の教室や、国内の児童養護施設やフィリピンの孤児院での学習支援活動で「迷路」を使った経験から、練り上げられ、鍛えあげられてきたもの。カメラで見はられている迷路や、2階建ての屋敷の迷路、くさい沼地を通り抜ける迷路など、さまざまなバリエーションを用意して、飽きさせないよう工夫されています。どの問題も子ども向けでありながら、子ども騙しのものはなく、大人がチャレンジしても本気にさせられる問題もいくつもあります。「子どもでも解けるのに、大人でも難しい」というのも「なぞぺー」シリーズに共通する特徴なのです。
 本書も同シリーズのこれまでの本と同様、親子で楽しんで、「考えること」の面白さを子どもと一緒に感じていただける一冊となっています。

例題

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仕事に差がつく  ビジネス電話の教科書

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「電話応対コンクール」元審査委員長 
恩田 昭子(おんだ あきこ)著

四六判並製/240頁/本体1400円

■ビジネス電話には、プライベートの電話とは違う、独特のマナーやルールがあります!
 小さい頃から携帯があった世代が、会社に入ってまずつまずいてしまうのが、電話応対です。当たり前ですが、会社にかかってくる電話や会社にかける電話の場合、誰が電話に出るかわかりません。そこが携帯・スマホとビジネス電話の大きな違いです。携帯・スマホに慣れた人は、「相手」が誰かわからない電話をとったり、かけたりすることは未知の経験であり、基本的なマナーもルールも身についていないのです。
 そうした背景を踏まえ、25年来、コールセンターの運営、電話応対の品質管理や社員研修サービスの提供を通じて、数多くの電話のプロを育成指導してきた著者が、蓄積してきたビジネス電話のノウハウを「教科書」としてまとめたのが本書です。この本では、ビジネス電話の独特のマナーやルールについて「なぜ必要なのか」という視点から、レベル別に噛み砕いて解説していきます。声の出し方から応対の基本、売り込み、クレーム対処、携帯・スマホのマナーまでを網羅し、この1冊で電話応対のすべてが学べる内容になっています。
 今や何でも用件をメールですませる人が増えているからこそ、電話力を上達させることで、会社の好感度をあげたり、「声」のコミュニケーションによってお客様に安心感を与えたり、そのメリットははかりしれないのです。
 昨今、社員教育にあまりコストをかけられない時代に、本書は、新人教育のテキストにも最適です。もちろんベテラン社員のさらなるスキルアップにも、多くの方のお役に立てるのではないかと考えております。また本書を通じて、ビジネス電話の意外に奥の深い世界にも驚かれることと思います。

★目次より
LEVEL1―ビジネス電話の基本のルール
LEVEL2―戦力になる電話のルール
LEVEL3―売り込むための電話のルール
LEVEL4―クレーム電話の応対のルール
LEVEL5―もっと上達するためのルール

なぜ韓国は中国についていくのか
――日本人が知らない中韓連携の深層

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荒木信子著

四六判上製 三〇四頁 定価二三七六円


〇国交正常化を画期として深まった中韓連携
 日本の朝鮮統治時代をめぐる歴史認識を取り上げて日本批判を繰り返す韓国朴槿恵大統領の言動は、朴氏が一国の国家元首の立場にあることを考えれば、何とも異様です。一方これとは対照的に、先のハーグ核安保サミットでは朴氏が日米韓首脳会談に優先して中国習近平主席と会談を行なうなど、中国との親密ぶりが目立ちます。中国と韓国はかつて朝鮮戦争で敵同士として戦い、双方に夥しい数の犠牲者が出たわけですが、こうした歴史はもはや不問に付されているかのようです。
 本書は、二十年余にわたり日韓関係をウォッチしてきた著者が、近年顕著になった中韓連携の由来を探ったものです。日韓間、中韓間の人的交流の推移を示す統計、中韓要路の接触を伝える韓国メディアの報道を丹念にたどった結果明らかになったのは、一九九二年の中韓国交正常化を機に韓国の中国傾斜が一気に進み、その後連携が深まったこと、多事多難な九〇年代を送った日本はこうした事態の進行に気づかなかったということです。

〇朝鮮半島でプレゼンスを増した中国

 連携の中身がけっして対等なものではないことも本書は明らかにしています。
 好調な経済を追い風に盧泰愚大統領は(旧)共産圏との修好を遂げ(「北方外交」)、その仕上げとして中国との国交正常化を果たしました。このとき韓国が正常化に前のめりになったのは、北朝鮮より優位に立とうとの思惑と、中国市場への期待が大きかったためと著者は見ています。しかしながら中国は正常化の声明の中で韓国が朝鮮半島の唯一の合法政府であるとは言っておらず、かたや韓国は中国の要望どおり長年の友邦国台湾を切り捨てました。金泳三大統領の時代には北朝鮮の核危機が表面化し(一九九三~九四年)、韓国は中国が北朝鮮を御してくれることを期待しますが、中国は曖昧な姿勢をとりつづけ、結局米朝合意がなって危機が去ってみれば、中国は北朝鮮との関係を保ったまま韓国への影響力を強めるというパワーバランスの図式が出来上がっていたのでした(第二章、第三章で詳述)。韓国との関係を深めることで中国は朝鮮半島全体でプレゼンスを増したのです。

〇〝韓国カード〟が切れるようになった中国
 一九九四年から「愛国主義教育」に名を借りた反日キャンペーンを発動した中国江沢民主席に金泳三大統領が同調、九五年の江・金共同声明でいよいよ本格的な対日歴史共闘の幕が開くのですが、この時期を跡づけた第四章はとりわけ読み応えがあります。両首脳はこのとき歴史認識問題でそろって日本を非難。韓国としては中国に北朝鮮を抑える役割を期待していたのでしょうが、結局のところ前面に出たのは歴史問題であり、共闘とはすなわち中国が日本に対して〝韓国カード〟を切れるようになったことを意味し、日本にとってはまことに厄介な状況が出現したと著者は指摘しています。
 中韓には二千年に及ぶ歴史の紐帯があり、日韓併合以降今日までがむしろ例外なのであって、すんなりと結びつくのは〝自然の摂理〟と著者は述べていますが、こうした原初的な関係があらわになった今は日韓関係を捉え直す好機でもあり、そのためにはまず韓国の行動原理を冷徹に見ることが肝要、本書は間違いなくこれに資する一冊と言えます。

2014年3月19日 (水)

皮膚科専門医が教える  やってはいけないスキンケア

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東京女子医科大学教授・同附属女性生涯健康センター副所長
檜垣祐子(ひがき ゆうこ)著 

四六判並製/208頁/本体1300円


■「本当に正しいスキンケアは何か」に答えを出す本
 美容情報の氾濫により、何が本当に正しいスキンケアなのかわからないという女性が急増しています。本書は、大学病院で30年来診療に従事してきたベテラン皮膚科医が、お肌にとって本当に効果のあるケアとやっても意味がないケア、やると悪影響のあるケアを明らかにしたものです。
 スキンケアで大切なことは「何をやるか」ではなく「何をやらないか」。著者がおすすめするスキンケアは、たった3つだけ。皮膚本来の機能を健康的に取り戻すための驚くほどシンプルなスキンケアを紹介していきます。

■肌トラブルに隠れた不安心理こそ、見直すべきポイント
 著者によれば、病院に来る患者さんの多くが、スキンケアを熱心にやりすぎるのが原因で、必要のない肌トラブルを引き起こしているといいます。美容情報に煽られ、吹き出物や毛穴を必要以上に気にして我流ケアをやりすぎて、こじらせてしまったり…肌トラブルの背景には、実は人間の不安心理が深く関係していると指摘しています。本書では著者の専門である皮膚心身医学のアプローチからも、肌トラブルと心のかかわりについて解説していきます。
 ぜひ本書で正しい知識を身に付け、美容情報に振り回されず、心身を健康にするスキンケアを実践していただければ幸いです。

■目次より
◎いっそ洗わないほうが肌への害は少ない
◎高機能化粧品の使いすぎは毛穴トラブルのもと
◎やりすぎ保湿は肌をゴワゴワにする
◎肌機能が整えば、どんな肌もきれいになる
◎もっと肌の自活力を信頼しましょう…

2014年3月12日 (水)

声に出して読みたい古事記

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齋藤孝 著  
四六判 並製 224ページ 定価1470円

最古の日本語から日本語本来の力を感じ取ることができる。
日本人が古来もつ感覚、世界観に近づいていける。


●最古の歴史書に書かれた奇怪な物語
 『古事記』は七、八世紀に成立した日本最古の歴史書で、後の『日本書紀』が大和王朝の正史であるのに比して、神代の国生み伝説を稗田阿礼の口承をもとに記録しただけに歴史とも神話とも区別のつかない奇怪な物語が語られている書物です。詳細に読めばとても面白い文章ですが、古語特有の難解さや退屈な部分もあり、なかなかとっつきにくいところがあります。しかし、『古事記』は日本人とは何かとか日本語とは何かということを考える際にはとても重要な文章です。天岩戸伝説(アマテラスオホミカミが岩屋に隠れたのを皆で誘い出す話)、因幡の白兎伝説、ヤマタノオロチ退治など、昔は教科書載っていて誰もが知っていた話が一時忘れられようとしていましたが、いまふたたび日本人のアイデンティティを求める要求に応えて注目されています。
 この本では主だったエピソードを抜粋し、大活字、総ルビ付きで紹介し、意味や現代語訳などを補っています。また著者の齋藤孝氏による卓抜な解説を適宜挿入して、『古事記』の示す世界観をわかりやすく読者に提供しています。

●朗誦することで日本語の魅力・活力に触れることができる
 「声に出して読みたい日本語」のシリーズの一つとして『古事記』を出すことはこの本の趣旨にとてもかなったことであると著者は述べています。『古事記』こそ声に出して読むことにふさわしいテキストだからです。原文は漢字だけの文章であり、口承された物語を輸入された中国伝来の漢字を表音文字として使って記録しています。本来の大和言葉がどんなふうに発音されていたかは正確にはわかりませんが、古来の研究によってほぼこのようであったという読み下し文として(ルビも振って)、現在遺されています。これを声に出して読んでみましょう。不思議な語感ですが、ある種の力強さがあり、日本語とはこんなものであったのだと感心させられます。古代日本人の心に触れることができるというか、日本人の世界観を自分のものにすることができます。不思議で奇怪なエピソードの数々、面白い語感の神々の名前や語り口、こうしたものを味わうことで私たちは日本人の伝統やアイデンティティを再確認することができるでしょう。

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