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2009年2月

2009年2月25日 (水)

中国は世界恐慌にどこまで耐えられるか

 

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四六判上製/224頁/定価1680円/2009年2月

●非政府系エコノミストのオリジナル経済論集

本書は中国の代表的な在野エコノミスト・仲大軍氏が、過去二年間に発表した論文や講演録から、最もヴィヴィッドなテーマを論じた十二編を選び、これに「外向型(輸出主導型)」発展戦略のリスクを指摘した二〇〇三年発表の論文(巻末「資料」)を加えて訳出したオリジナル経済論集です。仲氏は一九五二年、山東省済南生まれ。上海の復旦大学卒業後、国営新華社通信で経済関連を担当し、のち二〇〇〇年に民間シンクタンク「北京大軍経済観察研究中心〔センター〕」を設立しました。一貫して庶民の立場に立って積極的に提言し、官僚主義政治、既得権益層の固定化には鋭い批判の目を向ける硬骨漢とのこと。またアメリカの金融危機を早くから予測し、その後の趨勢に照らして優れた先見性を示しています。
中国内にあって活発な評論活動をおこなっている非政府系エコノミスト自体、稀有の存在ですが、官庁エコノミストとは一線を画す視点で経済の実態をとらえた論文がまとまったかたちで日本に紹介されるのは、おそらく本書が初めてと思われます。

●急激な市場化のマイナス面を率直に描く

「訳者あとがき」で、坂井氏は本書の意義を三つあげています。
一つは、仲氏が中国では最も早く「外交型」発展戦略の危険性を指摘し、「内向型」への転換を提起してきたことです。仲氏は、一兆二千億ドルの米国債券など豊富な外貨を使って在中国のアメリカ企業を買収せよと説いています(第一章、第二章)が、中国国内にあるこうした意見がはっきりと示されたのは初めてのことではないでしょうか。
二つめとして、「外向型」発展戦略のマイナス面、すなわち安価な製品を輸出するために生じた環境破壊や労働者の貧困、外資導入にあたって権力をおカネに変えて巨利を得る官僚の腐敗等々をかなりラジカルに批判していることで(「資料」)、仲氏のような考え方が受け入れられる素地が中国にあることがわかります。
三つめは、改革の三十年を総括し、これまで主流だった、市場経済推進派=新自由主義派(右派)の旗色が悪くなり、代わって毛沢東の左傾を肯定する「新左派」が台頭し、この左右両派の対立が深刻になっていることを率直に述べていることです(第五章)。華国鋒時代のような一触即発の状態にあると仲氏は書いていますが、このことも日本ではほとんど紹介されていない中国の最新の思想潮流です。
急激かついびつな形の市場化が、深刻な矛盾となって中国社会に内在しているということであり、こうした危機的状況が一切の脚色なしに描き出されているところに本書の意義はあります。

●中国経済の今後を占うための必読の書

世界経済復活の鍵を握るとみられる中国ですが、経済刺激策として投入されるという四兆元は、はたしてどれほどの効果をあげるのか。すでに温家宝首相が先行きの厳しさを認めていますが、進行中の世界的大不況に中国はどこまで耐えられるのか。仲氏はGNPの伸び率が六パーセントまで下がれば予期せぬ事態が起きるのではないかと述べています(第七章)。中国の経済・社会の動向は日本にとっても重大な意味を持っています。外側からは窺い知れないその内情を明らかにした本書は、隣国の今後を見通すためには欠かすことのできない一冊と言えるでしょう。

2009年2月23日 (月)

炭鉱太郎がきた道――地下に眠る近代日本の記憶

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七尾和晃・著

四六判上製/224頁/定価1785円/2009年2月


●「時代の波」に淘汰されていった人々の濃密な生の軌跡●
これまでにない激烈な経済危機がこの国を苛んでいます。グローバルな構造変化による急速な衰亡――。かつて炭鉱夫(炭鉱太郎)たちが辿った道を、いまや日本と いう国全体が歩んでいるようにさえ思えますが、では彼らはその後どうなったのでしょうか。本書は、時代の波に飲み込まれていった人々の来歴を、「炭鉱夫」という存在の歴史的な背景にまで目配りしながら活写したルポです。著者は最盛期に石炭産出量の四割を生産していた福岡・筑豊地区を中心に丹念な取材をおこない、数多くの炭鉱太郎たちの「肉声」を聴きました。そこには当然、過酷な労働環境についての記憶もあれば、歴史の暗部ともいうべき搾取や差別にまつわる記憶もありますが、日本の近代を地の底から支え続けた人たちが語る強烈な体験の数々には、「恨みごとに終わることのない……ささやかで優しいたくましさ」(本書より)が満ちているのもたしかです。本書が危機の時代を必死で生き抜こうとしている日本人を勇気づけることを願ってやみません。

[本書から]
●炭鉱離職者に交付された「黒い手帳」。しかし、この手帳が累計でどれだけ発行されたかは不明で、厚生労働省にすら記録が残っていない。
●炭鉱で働く人々のなかには、石炭会社の「社員」という身分の炭鉱夫のほかに、「納屋」とよばれる場所に籍を置いた(現在の派遣問題にも通じる)渡りの人々がいて、炭鉱夫の離職率の高さは明治期以降(戦中も)、つねに問題となってきた。
●ヤマとヤマを取り巻く町村の人々との軋轢から生まれたのが、「山の神」神社という独特な神社だった。            

脱ニッポン人生――自分の居場所の見つけ方

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大倉 直=著
四六判並製/224頁/定価1,365円/2009年2月

◆ニッポンを飛び出したら、どんな人生が待っているのか?
 不況のいま、派遣切りや就職難が話題になり、いかに生きていくかという問題が大きくクローズアップされています。
 本書で扱われているのは、そんな日本社会のレールからはずれ、海外に飛び出していった人たちの人生です。向かった先はメキシコ、トルコ、タイ、ネパール、中国……と本当にさまざまです。
 ユニークなのは、取材対象が「ふつう」の人たちだということです。海外脱出の成功者たちに成功した秘訣を訊いたのではなく、かつて海外の旅先で出会った人たちを再訪して、その後どう「サバイブ」しているかを取材したものなのです。それゆえ、成功した人もいれば、「何となく日々を過ごしている」人、あるいは「後悔している」人などもいて、「脱ニッポン人生」のリアルな側面を見ることができます。
 彼らの人生の形は多様なれど、誰もに「自分が心底納得できる人生を築いていこう」という意志が共通してあったと著者は指摘します。飛び出していった後、さまざまな物語を経てそれぞれの居場所に辿り着いた彼らを見ていると「生き方はいくらでもある」「とにかく何でもトライしてみよう」と、元気がわいてくる思いがします。
 社会が沈滞ムードに覆われたいま、人生に迷っている人たち、不安を抱えている人たちにぜひ読んでもらいたい1冊です。

【本書より】
・ふらっと旅で寄った中国に興味を持ち、住み着いて翻訳の仕事で食べていくようになった青年
・旅先で知り合ったタイ女性に夢中になり、結婚してバンコクで店を出して暮らしている演劇青年
・ネパールに住み着き、月収五千円でなりゆきまかせに暮らしている神父
・旅先で立ち寄ったメキシコに目をつけ、日本で貯めた百万円を元出にして、マンガ本屋をヒットさせた放浪者
・女子高を中退してFMWに入り、その後メキシコでのルチャリブレ修業を経て、現在は日本で女子プロをしているシングルマザー
・妻と「50歳になったら役割交替をしよう」という約束を交わし、実際にトルコに語学留学にやってきた定年夫

宇宙を織りなすもの 上・下 ――時間と空間の正体

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ブライアン・グリーン著

青木薫訳

46判上製/上下とも448頁/定価上下各2310円/2009年2月



◆物理学最大の謎はどこまで解けたか? 現在最高の案内書
 「時間も空間も伸び縮みする」「宇宙は膨張している」といった物理学の話を、聞いたことがあるでしょうか。最近では「宇宙は一枚の膜(ブレーン)かもしれない」とか、「ブラックホールを作る実験を行う」「量子力学を使ったテレポーテーションが成功した」など、物理学はさらに奇妙な主張をするようになっています。
 これらの物理学の成果は「時間とは何か?」「空間とは何か?」という、人類が古代からずっと問い続けてきた物理学最大の謎に、ニュートンやアインシュタインなど、各世代の物理学者が挑み続けることで得られました。彼らは革命的な進歩を成し遂げ、この世界の本当の姿が、私たちが常識的に認識しているものはまったく違う、とても奇妙なものであることを明らかにしてきたのです。それらは、もちろん私たち「非物理学者」にとっても、非常に興味を惹かれる話です。しかし、私たちには、その一端を見聞きすることしかできず、物理学の世界で起こってきたものすごい事件の全体像や、それら発見の意義を知ることはできませんでした。
 本書は、その状況を打開するような画期的な本といえます。本書の著者は、前著『エレガントな宇宙』で超ひも理論という難解な最先端理論を見事な手並みで解説し、高い評価を得た物理学者ブライアン・グリーン。今回は「時間とは、空間とは何か」という問いに挑み、私たちにもわかるように、現在得られている最良の答えを教えてくれます。物理学がニュートン以来の探究により至った高み、その到達点に読者を引き上げ、世界の「本当の姿」を一望させるという体験が、これまでにない興奮を与えることは間違いありません。
 物理学に少しでも興味のある方、時間や空間について疑問に思ったことのある方には、ぜひ読んでいただきたい本です。

著者紹介  ブライアン・グリーン Brian Greene
物理学者・超ひも理論研究者。ハーヴァード大学を卒業後、オクスフォード大学で博士号取得。現在はコロンビア大学物理学・数学教授。研究の第一線で活躍する一方、超ひも理論をはじめとする最先端の物理学を、ごく普通の言葉でわかりやすく語ることのできる数少ない物理学者の一人でもある。超ひも理論を解説した前著『エレガントな宇宙』は、米国ではもちろん日本でもベストセラーとなり、全世界で累計100万部を超えた。

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