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2009年4月21日 (火)

地侍の魂――日本史を動かした独立自尊の精神

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柏 文彦 著

四六判/上製/256頁/定価1890円

独自の発想力と行動力を持ち、私利を捨て公に供する誇り高き生き様

■権力に縛られない独立武装農民たちの誇り高き「サムライ」精神

 日本人はよく「集団主義」「個の顔がみえない」などと言われます。本当にそうでしょうか。歴史を振り返ると、たとえば「幕末・維新」の時代、突出した「個」が数多出現してまさに日本史を大きく動かしました。
 じつは彼らこそが、「地侍」の血と精神を受け継いだ末裔だったそうです。中世に各地に登場した「地侍」とは、自ら土地を耕す農民であると同時に、その土地を守るために刀を持ち戦いも厭わぬ「武装有力農民」たちのことです。戦国の争乱においては、有力大名に付いたり対立したりしつつ果敢に戦う武装集団となり、勇猛な武将も数多登場します。
 大地に根差した生産者であり、自らの家名に誇りを持つ名字帯刀の武士、時の権力者におもねることなく私利私欲のためではなく、自身の属する共同体のため、「公」のために命を懸けて戦う。まさに「サムライ」の精神を体現する存在だったと言えるでしょう。

■坂本龍馬、吉田松陰、伊能忠敬、高田屋嘉兵衛…時代を動かす傑人たち
 戦国が終わり天下統一を果たした秀吉は地侍たちの武装解除を敢行します。こうして歴史の表面から「地侍」は消えるのですが、彼らの末裔とその精神は形を変えて日本史のさまざまな場面に意外な姿で登場します。
 地侍のあるものは農民となり、広大な土地の開発、溜池や用水路の築造による治水事業を行い、新作物の導入や品種改良などによって当時、世界最高水準の農業生産性を実現していきます。またあるものは商人として新たな業をつぎつぎに起こし、先物取引や複式簿記などの先端的な手法も開発していきます。北前船で大規模な商品流通を実現させ、捕鯨業や牡蠣の養殖業なども生み出しています。洋学を取り入れて先端の医学を導入する一方では、弄石家や本草家、好事家など文化的な成熟にも貢献していきます。
 あるものは下級武士となり幕藩体制に組み込まれますが、彼らがやがて幕末を駆け奔る志士となっていくのです。このように、近世以降の日本社会においては、政治経済から社会文化にいたるあらゆる場面で、「地侍」の末裔は活躍しているのです。本書は、これまでになかったこの視点で、日本史を読み直すというきわめてユニークな試みなのです。

■政治・経済・社会の閉塞を突き破ってきたのは「地侍の魂」だった
 江戸中期の経済的停滞期においても、末期の政治的閉塞期においても、つねに「地侍」の行動力と発想力、企画力が閉塞をうち破ってきたと言えます。江戸期から近代、現代へと続く日本の大きな発展の底流には、つねにこの地侍的な力が流れてきました。世界的な閉塞状況にある今も、この「地侍の魂」で状況を変えることができるのではないか。本書は、そのことを多くの日本人に思い起こさせてくれる、元気を奮い立たせる1冊です。

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