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2010年9月21日 (火)

日本 1852
――ペリー遠征計画の基礎資料

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チャールズ・マックファーレン=著 渡辺惣樹=訳

四六判上製/二九六頁/定価二一〇〇円/二〇一〇年九月

●一八五二年の「オール・アバウト・ジャパン」
 本書は一八五二年七月、ペリー艦隊がアメリカ・ノーフォークから日本に向けて出港する四カ月前にニューヨークで出版されました。ペリーの交渉によって日本は開国するのか。世界の耳目を集めたアメリカの遠征計画ですが、相手国の日本について総合的に知る著作物は皆無ということで、いわば時代のニーズに応えて、イギリス有数の歴史・地誌学者が書いた「日本概説」です。西洋との接触、地理、民族と歴史、宗教、政体、鉱物資源、動植物、芸術、言語、文学等から日本人の性質までを網羅し解説されていて、米英の対日観の原点を知るうえでは大変重要な資料ですが、これが日本で初の全訳となります。

●恐るべきイギリスの「情報力」
 まず驚かされるのはイギリスの情報収集力の凄さです。日本が門戸を閉ざしていたイギリスですが、ラテン語からポルトガル、スペイン、イタリア、フランス、オランダ、ドイツの各国語で書かれた日本関連の書物が十六世紀以来、膨大に蓄積されていたことがわかります。さすがに世界に冠たる情報機関を持つ国です。さらに驚くべきは、著者が日本及び日本人のことを相当な精度で把握していることです。たとえば、天皇(心の皇帝)と将軍(世俗の皇帝)の並立する権威の存在をはっきりと意識していたことがあります(したがって、ペリーの二度にわたる来航は、開国の是非をめぐる国論統一の時間を将軍に与えるためとも推測できます)。また、次の一節を読み、その九十余年後の歴史を考えたとき、著者の分析の確かさに何やら無力感すら覚えることでしょう。
「(日本の武士はときに侮辱されるよりは切腹を選ぶ。もしこれが本当なら)日本の兵士は強力で激しく戦うだろう。アメリカが(開国のため)侵攻した場合、まずこの国は敗れるに違いない……ただ、その過程でどれだけの死者が出るかは想像さえつかない」

●ペリー来航の本当の目的
 カナダ在住の訳者、渡辺惣樹氏は新たな視点で日米関係をとらえるべく、事業のかたわら広く米側史料を渉猟しています。その最初の成果が昨〇九年に上梓した『日本開国』(小社刊、本年度「山本七平賞」最終候補作)です。アメリカの開国要求の目的は中国市場と米国東部を最短で結ぶうえでのシーレーン構築にあったとの解釈を示したものですが、渡辺氏はその参考資料の一つとして本書を発見し、「パナマ運河」に関する記述を読んで自身の解釈に確信をもったと編集子に語っています。すなわち本書は米英の対日観の原点を知るだけでなく、ペリー来航の本当の目的を明らかにするための重要な手掛かりでもあります。
 人口が多く、優れた農業技術・活発な商活動・高度な精神文明を持つ国。健康で、遵法精神に富み、不正を憎み、礼節を重んじ、勇敢で、フランクで、勤勉な民族――マックファーレン氏は本書で日本及び日本人を高く評価していますが、果たして米英はその後、ここからどのような対日戦略を導きだしたのでしょうか。

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