« 北朝鮮に嫁いで四十年
――ある脱北日本人妻の手記
| トップページ | 少年の日の思い出
――ヘッセ青春小説集 »

2010年12月13日 (月)

137
――物理学者パウリの錬金術・数秘術・ユング心理学をめぐる生涯

1793137

1793137_2











アーサー・I・ミラー/阪本芳久訳
46判/上製/480頁/定価2,415円/2010年12月

◆物理学は錬金術から生まれた!
 今でこそ、科学者たちは神秘主義を毛嫌いして批判していますが、歴史的に見れば、科学は、錬金術や数秘術、占星術などの神秘主義の中から生まれてきたものです。17世紀ころまでは両者は分かちがたい関係にあり、たとえばニュートンも人生の多くを錬金術の研究に費やし、物理学を研究したのはごく短期間だけだったと言われています。
 その後、18世紀と19世紀を経て、実験手法や数学が洗練され、科学と神秘主義は別の道を歩んでいきました。しかし、20世紀の初め、物理学者たちは、自分たちが神秘主義者の末裔であることを意識させられる事態に直面します。量子的世界の奇妙な振る舞いの発見です。微細な世界の現象には、それまでの物理の常識はまったく通じず、謎と混乱は深まるばかりでした。実験や計算で出た数を、理由もわからず足したり割ったりすると、規則的な整数が現れますが、それがなぜかを説明する理論はなかなか生まれませんでした。当時の物理学者は、仲間の研究をまるで数秘術や錬金術のようだと批判したり、自嘲的に独白したり、あるいは冷静に論評したりしていたのです。
 そして同じころ、まったく別の方向から錬金術や数秘術に光を当てた人物が、新しい思想の潮流を作り、大変な影響力を誇っていました。心理学者カール・ユングです。

◆ノーベル賞物理学者パウリと心理学者ユングの秘密の共同研究とは?
 ユングは、全人類の無意識は共通の基盤を持っており、それは錬金術の図像などに現れているという「集合的無意識」の理論を作り上げ、心理学界で確固たる地位を築いていました。しかしその一方、ユングは自らの理論を科学的なものにするために、科学者の助けが必要だと考えていました。
 そんなユングのもとに、本書の主人公である物理学者ヴォルフガング・パウリが患者として訪れます。パウリは、物理学の難問を考え続けたことや結婚に失敗したことなどが原因で、心を病んでおり、ユングに助けを求めました。ユングが面談してみると、パウリはとても象徴的で鮮やかな夢を見て、かつ卓越した知性を持っており、心理学の研究対象として非常に興味深いことに気づきました。そのうえ、一流の科学者であることから、自分の研究の科学的な支えになってくれるのに十分な人物でした。
 パウリから見ても、ユング心理学や錬金術は非常に興味深いものでした。パウリは、自らその発展に大きな寄与を果たした量子力学に、錬金術・数秘術的な数の謎があることに悩まされていました。また、17世紀の科学者ケプラーに造詣が深く、ケプラーがいわば科学的錬金術師であったことも知っており、物理学の出自が錬金術にあることにも自覚的でした。このため、二人の関係は自然と、患者と医者から共同研究者の関係へと移行していきました。しかし、パウリはこのことを同僚たちに知られることを恐れ、ユングとの共同研究を秘密にしていたのです。その共同研究とは、二人の関係とは、どのようなものだったのでしょうか。本書でその全貌がはじめて明らかになります。
 出自を同じくするものでありながら、いまやまったく別のものとなっている物理学と神秘主義が、20世紀においてなぜ再接近したのでしょう? 本書を読めば、それが狂気や気まぐれのせいでなく、物理学のあるべき姿を真摯に追い求め、世界の本当の姿を知りたいという強い情熱を抱いたからだということがわかるはずです。科学とは何か、物理学とは何かという問いに、科学史の世界からまったく新しい光を投げかけてくれる一冊です。

内容より

・137=微細構造定数の謎にとりつかれた物理学者たち
・パウリを悩ませた、量子力学に現れる「3」と「4」の謎
・ユングの占星術研究、UFO研究に対するパウリの反応
・物理学は錬金術・数秘術など神秘主義から派生した
・パウリの物理学の業績と、夢に現れた中国人女性の関係

« 北朝鮮に嫁いで四十年
――ある脱北日本人妻の手記
| トップページ | 少年の日の思い出
――ヘッセ青春小説集 »

書籍・雑誌」カテゴリの記事