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2012年1月10日 (火)

日本の防衛 10の怪

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藤井非三四(ふじい・ひさし)=著

四六判上製 二五六頁 定価一八九〇円 二〇一二年一月


〇「地理・戦史・国力」の観点から喫緊の問題を検証
 じっさいに軍事力を行使することと、軍事について論じることは別な事柄であるにもかかわらず、戦後六十七年のあいだ、軍事について語ることじたいをタブー視する空気が醸成され、国防や安全保障を論じるための共通認識が失われてしまった感があります。
 非武装中立論から核武装論まで、日本の安全保障や国防をめぐる近年の議論が、互いに相容れない主張のぶつけあいとなり、だいたいが不毛な論争に終わってしまうのは、論者のあいだで、軍事に関する〝下敷きと物差し〟、すなわち「地理・戦史・国力」という、数字で明快に示されるスタンダードが共有されていないためではないか――。これが著者の藤井氏の持論です。本書は、四十年以上にわたり軍事史を専門としてきた藤井氏が、日本の防衛について喫緊の問題十項目を俎上にのせ、「地理・戦史・国力」の観点から、何がどう問題なのかを検証、もっとも合理的な解決策を示したものです。
 北東アジア情勢がいっそう不安定化する一方、オバマ米大統領が新たな国防方針を打ち出すなど、経済のみならず安全保障面でも大転換期を迎えたいま、日本の国防のあり方を考えるうえでは、じつにタイムリーな一冊といえます。

〇「憲法九条」とのつじつま合わせがもたらす歪み
 本書で取り上げている問題は以下の十項目です。
「専守防衛」「島嶼防衛」「核武装と抑止力」「集団的自衛権」「防衛大綱」「動的防衛力」「戦力の算定」「統合運用と連合作戦」「自衛隊の重装備カット」「自衛隊の人件費削減」。
 たとえば日本の国是ともいうべき「専守防衛」ですが、これは「専守防御」(ある一定の地域を固守する防御の意。そこを奪われたら逆襲して奪回ははかるものの、それ以上の積極的な攻撃には転じない)という戦術用語を意識した造語であろうと藤井氏はいい、「このような戦術上の概念を国家戦略に応用できるものか、という疑問があってしかるべき」と述べています。日本は三万キロにおよぶ海岸線をもつ国であり、しかも戦略的・作戦的には包囲された状態の「内線」の位置にあり、きわめて守りにくい。どこからでも攻められるが、これに対して積極的な攻撃ができないということです。
「専守防衛」では日本の安全保障は成り立たないわけです。にもかかわらずそれを唱えるとなれば、それは、あらゆる安全保障の施策に反対する国内勢力に向けたスローガンにすぎないと、藤井氏は批判しています。それではどうすればいいのか。地理的条件が変わらないのであれば、明治日本がとっていた「開国進取」の考え方に立ち戻り、問題が起きれば「前に出てさばく」路線に転換するしかないと藤井氏は結論しています。
「防衛大綱」以下の項目は、特に防衛省/自衛隊にかかわる問題ですが、これも含め、本書から浮かびあがってくるのは、「憲法九条」の文言と主権国家が当然なすべき祖国防衛という、もともと整合性がとれるはずのない二つの命題を、なんとかかんとか取り繕ってきたしわ寄せが、最前線にいる自衛隊の上にのしかかっている、という図です。
 日本がまともな主権国家となるために、いま何が必要なのか。本書をお読みいただければ、その答えはおのずと明らかになるかと思われます。

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