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2012年2月

2012年2月17日 (金)

百姓たちの幕末維新

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渡辺尚志(わたなべ たかし)・著

四六判上製/336頁/定価1890円(税込)/2012年2月

武士だけを見ても、「幕末」は見えてこない。
当時の日本人の8割を占めた百姓たちの、
日々の暮らし、動乱への関わりを史料から描いた、まったく新しい幕末史。

 幕末史といえば、武士目線で武士の活躍を描いたものが大半ですが、当時の日本人の8割は百姓であり、彼らの営みを見ずして「幕末」という時代の全体像は見えてきません。
 本書では、1830年代~1880年代を「幕末維新期」ととらえ、幕末の百姓たちの衣食住から、土地と農業への想い、年貢をめぐる騒動、百姓一揆や戊辰戦争への関わり、明治になってからの百姓までを、残された希少な史料に基づき、微細にわかりやすく解説していきます。また、百姓の中でもとくに中下層の百姓(つまり人口の大多数を占めた一般の百姓)にスポットを当て、地域的には、北は東北から南は九州まで全国の百姓の営みを追いかけます。
 幕末の百姓は、農業に励むことで、年貢を納め、何とか生計を立てようと懸命でしたが、天保の大飢饉や、物価の高騰などによる生活苦は厳しいものでした。先祖代々受け継がれてきた愛着のある土地を売り渡して小作人になったり、年貢の滞納が続き村役人に訴えられたりといった綱渡りの日常が、複数の村の記録から浮き彫りにされます。
 こうした没落への危機感は、広域にわたる百姓一揆を誘発しました。米の買い占め・売り惜しみをし、一般百姓の窮状を救おうとしない裕福な百姓家や商人の家が打ちこわされました。略奪・放火・暴力行使という、従来の百姓一揆では見られなかった逸脱行為も見られ、年貢の滞納を記録した帳簿の略奪・破棄も行なわれました。一揆勢による打ちこわしの様子や、一揆に巻き込まれた一般百姓の供述の記録は、リアルな迫力に満ちています。
 戊辰戦争と百姓の関わりについては、戦場となった東北の村を舞台に記述が展開されます。村は、放火・略奪などの甚大な被害を受けましたが、百姓たちは被害を最小に食い止めるべく、軍勢に嘆願して乱暴除けの札を獲得したり、軍勢への協力と引き換えに保護を求めました。一方、百姓たちは軍夫(後方支援要員)として戦場に動員されました。江戸時代の百姓は、原則、非戦闘員でしたが、後方支援の拒否まではできませんでした。そもそも江戸時代の軍隊は百姓抜きでは成り立たない仕組みだったのです。さらに、武士だけでは戦闘員が足りず、百姓が農兵(戦闘員)として前線に赴き、否応なく殺し殺されるという状況も起こりました。百姓という視点で戊辰戦争を見ると、旧来の旧幕軍対新政府軍という戊辰戦争像が大きく覆されます。
 幕末史を百姓目線で捉えなおした本書は、非常に画期的な論考となっています。これまで語られなかったもう一つの幕末史として、多くの読者に読まれることを願ってやみません。

2012年2月10日 (金)

良いトレーニング、無駄なトレーニング
――科学が教える新常識

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アレックス・ハッチンソン著/児島修訳
     四六判並製/368頁/定価1890円/2012年2月

●最新のスポーツ科学の成果をもとに、トレーングに関する「神話」を検証●
 本書はかつてカナダ代表の中長距離ランナーだった科学ジャーナリストが、最新のスポーツ科学の成果をもとに、スポーツ全般に関する「定説」や「新説」の妥当性を検証した本です。「運動前のストレッチでパフォーマンスが低下する」「乳酸は筋肉にとって不可欠の燃料」など、通説とは180度異なる知見も多数紹介されていて、かなり刺激的な一冊になっています。ですが、さまざまな実験データを縦横に引用しながら、「現段階ではっきりと断言できること」、そして「可能性としてはありうること」を誠実に提示していく著者の態度はまさに科学者のもので、読者に確かな足場を与えてくれます。人体の神秘的とも思える機能を知ることによって、身体を動かす楽しみは何倍にもなります。本書がその一助となることを願ってやみません。

【本書から】
●有酸素運動と筋力トレーニングは、どちらを先におこなうべきか?
●運動は免疫システムにどんな影響を与えるか?
●裸足で走ることで得られるメリットとは?
●一日のうちでもっともスポーツに適している時間帯はいつか?
●どんなストレッチをすればケガを予防できるか?
●抗酸化ビタミンで運動の効果が失われる可能性がある?
●頭が疲れていると運動のパフォーマンスも落ちる?
●ヨガとトレーニングをくらべてみると?
●マラソンでの最適なペース配分とは?

すごい空の見つけかた2

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文・写真 武田康男

B5判変型[180mm×180mm]/上製/96頁/定価1,680円/2012年2月

◆大好評企画の第2弾! 空にある科学と美を見つける本
 空を見ることを趣味にする人の数は年々増えていて、ブログやSNSでも雲の写真が掲載されているのをよく見かけるようになっています。このようにじわじわと空観察ファンを増やすきっかけとなった本のひとつが、気象写真の第一人者・武田康男さんの『すごい空の見つけかた』(2008年・草思社)で、多くの愛好家の愛読書になっています。本書はその第2弾となるもの。前作同様、空の現象を美しい写真で紹介し、その現象が起こる理由やどのようにしたら見られるかを解説しています。

◆すごいのは写真だけじゃない! 解説を読むと空を見る目が変わる
 本書には美しい空、不気味に見える空、「すごい」としか表現しようのない空の写真が、40点あまり掲載されています。その迫力は前作をしのぐかもしれません。
 入道雲の上に突然、薄い雲が生まれ、太陽を受けて輝いた午後の光景。天空を横切る巨大な影が発生、空が割れたように見えた、夕刻の光景。さまざまな空の現象の写真を見るだけでも魅了されますが、その美しい空が生まれた理由をわかりやすく、非常に面白い着眼点から解説する武田さんの文章も、本書の大きな魅力です。
 試しにどのページでも、文章を読んでからもう一度写真を見てみてください。文章を読む前とはまったく違った印象を抱かされ、もう元には戻れません。武田さんの文章によって空の美しさの中にある不思議が解き明かされると、空がまったく違ったものに見えるからです。
 美しい空には科学がある。その光景が生まれた理由がある。そんな空観察の奥深さを教えてくれて、ますます空が好きになること間違いナシの一冊です。科学に興味を持ち始めた中高生へのプレゼントにも最適です。

著者紹介
1960年生まれ。東北大学理学部地球物理学科卒業。元高校教諭。大学非常勤講師。気象予報士。日本気象学会会員。日本自然科学写真協会会員。第50次南極地域観測隊員として、2009~2010年に昭和基地で越冬観測。著書に『空の色と光の図鑑』[共著]、『楽しい気象観察図鑑』、『すごい空の見つけかた』、『世界一空が美しい大陸 南極の図鑑』(以上、草思社)、『雲と暮らす。』(誠文堂新光社)など。

TPP 知財戦争の始まり

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渡辺惣樹=著

四六判上製 一八四頁 定価一五七五円 二〇一二年二月

何ひとつハッキリ説明しない野田総理に代わってアメリカの真意を解き明かす

〇中国市場攻略のためのルールづくり
 野田政権の発足後、にわかに浮上してきた感のあるTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)交渉ですが、いまにいたるも米国が何を求めて日本に圧力をかけ交渉参加を促したのか、はっきりしません。米国の目的は、はたして巷間いわれるように日本の農業、医療分野の自由化にあるのか。本書は、二〇〇八年以降の米側 (とくに後述するIPEC) の動きを追うことで、強硬な主張の背後に隠された米国の真の狙いを解き明かしたものです。
 すなわち、知的財産権(知財)の輸出拡大によって雇用の促進と新しい産業の育成をはかると決意した米国は、TPPを通じて米国型法システムに準拠した新たな国際交易ルールをつくり、この新しいルールにのっとって、もはやWTOでは制御不能となった中国の知財侵害 (これによる米国の損失は年間四兆円) を抑え込み、フェアな通商環境を構築したのちに中国マーケットを攻略しようという壮大なプランをたてたのであり、対中貿易額が米国を上回る日本には、どうあってもこのルールづくりに加わってもらいたい、日本を中国との知財戦争の〝同盟国〟にしたいというのが米国の真意だということです。

〇〝影のプランナー〟、エスピネル女史に着目
 コメの自由化が一種の〝目くらまし〟にすぎないことは、2章でその根拠が示されています(貿易収支、安全保障、「米韓自由貿易協定」の先例等)。そのうえで著者はIPEC(「米知的財産権を行使するためのコーディネーター」)という大統領直結の省庁横断組織に着目。二〇〇八年、超党派で成立したPRO―IP法(「国家の資源及び組織を知的財産権振興に優先的に活用する法」)にもとづいてつくられた組織です。米国は同じ〇八年に、それまで見向きもしなかったP4(TPPの前身)参加に積極的になってもいます。このIPECを率いるのがビクトリア・エスピネル(本書のカバー写真の女性)という知財問題のスペシャリストであり、著者はこの人物こそ、TPPの〝影のプランナー〟であると見立てています。IPEC成立にいたる詳しい経緯は本書に譲るとして、一読、米国の〝本気度〟がわかり、こんごの日本がとるべき最善の策がどのようなものかが理解できるはずです。

〇ビジネス体験と米国史理解にもとづく見立て
 著者の渡辺氏はカナダ在住、三〇年にわたって米国・カナダでビジネスに携わってきました。近年は、幕末いらいの日米関係史を、米英資料をもとに捉え直すことをライフワークとして、『日本開国』『日本 1852』『日米衝突の根源1858―1908』の著訳書を上梓。『日本開国』では、米国がペリー艦隊を派遣した本当の狙いは、中国市場で英国の優位に立つための太平洋シーレーンの構築にあったことを明らかにしました(日本は〝米国の中国市場攻略の一つの駒〟の構図は、このたびのTPPのなかにそっくりそのまま見ることができます)。米国史への造詣の深さに加え、ビジネスマンとして、特許侵害裁判を含む数々の〝修羅場〟を体験した渡辺氏の見立ては、じつに正鵠を射たもので、TPPをめぐる論議が的外れなものとならないための必読書といえます。

子どもを蝕む 空虚な日本語

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相模原市立中央小学校教諭 齋藤浩 著

四六判並製/280頁/定価1365円/2012年2月

一方通行、黙ったまま、暴言を吐く、すぐ泣く……
今、人とうまくかかわれない子どもが急増している!

教師歴26年、ベテラン現役教諭が、子どもたちの言葉の危機的実態を明かす。
 今、小学校の子どもたちの言葉使いに異変が起こっています。低学年のときから、「うざい」「きもい」「ビミョー」「ヤバくね」「ウケぽよ」「イミフ」など、記号化した言葉や造語を多用する子どもたちが増え、言葉の乱れは、年々低年齢化しているというのです。
 こうした「空虚な日本語」はおそろしいことに、知らない間に子どもたちから「表現力」と「考える力」を奪っていきます。著者によれば、流行語にふりまわされ、小学校のうちに確固たる言葉を確立できない子どもたちは、その後大人になっても自分や相手の気持ちや感情に鈍感になってしまい、いざというときに自分の気持ちや考えを相手に正確に伝えることができなくなってしまうそうです。そして、うまく言葉で表現できなくなるため、時には暴力をふるったり、暴言を吐いたり、すぐ泣き出したり、言葉以外の問題行動に走ってしまうというのです。
 わが子はうまく社会でやっていけるのか――。とりわけ就職活動が厳しくなっている昨今、子どもの将来を不安に思っている親御さんは増えているかと思います。そうした不安を解決するために、どうしたらいいのか。本書は豊富な現場の具体例をもとに、子どもたちが「どこでも」、「誰とでも」きちんとかかわっていく力を身に付けるための方策をわかりやすく提案しています。
 子どもや日本の将来を考える上で、ぜひ、おすすめしたい一冊です。

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