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2012年2月10日 (金)

TPP 知財戦争の始まり

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渡辺惣樹=著

四六判上製 一八四頁 定価一五七五円 二〇一二年二月

何ひとつハッキリ説明しない野田総理に代わってアメリカの真意を解き明かす

〇中国市場攻略のためのルールづくり
 野田政権の発足後、にわかに浮上してきた感のあるTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)交渉ですが、いまにいたるも米国が何を求めて日本に圧力をかけ交渉参加を促したのか、はっきりしません。米国の目的は、はたして巷間いわれるように日本の農業、医療分野の自由化にあるのか。本書は、二〇〇八年以降の米側 (とくに後述するIPEC) の動きを追うことで、強硬な主張の背後に隠された米国の真の狙いを解き明かしたものです。
 すなわち、知的財産権(知財)の輸出拡大によって雇用の促進と新しい産業の育成をはかると決意した米国は、TPPを通じて米国型法システムに準拠した新たな国際交易ルールをつくり、この新しいルールにのっとって、もはやWTOでは制御不能となった中国の知財侵害 (これによる米国の損失は年間四兆円) を抑え込み、フェアな通商環境を構築したのちに中国マーケットを攻略しようという壮大なプランをたてたのであり、対中貿易額が米国を上回る日本には、どうあってもこのルールづくりに加わってもらいたい、日本を中国との知財戦争の〝同盟国〟にしたいというのが米国の真意だということです。

〇〝影のプランナー〟、エスピネル女史に着目
 コメの自由化が一種の〝目くらまし〟にすぎないことは、2章でその根拠が示されています(貿易収支、安全保障、「米韓自由貿易協定」の先例等)。そのうえで著者はIPEC(「米知的財産権を行使するためのコーディネーター」)という大統領直結の省庁横断組織に着目。二〇〇八年、超党派で成立したPRO―IP法(「国家の資源及び組織を知的財産権振興に優先的に活用する法」)にもとづいてつくられた組織です。米国は同じ〇八年に、それまで見向きもしなかったP4(TPPの前身)参加に積極的になってもいます。このIPECを率いるのがビクトリア・エスピネル(本書のカバー写真の女性)という知財問題のスペシャリストであり、著者はこの人物こそ、TPPの〝影のプランナー〟であると見立てています。IPEC成立にいたる詳しい経緯は本書に譲るとして、一読、米国の〝本気度〟がわかり、こんごの日本がとるべき最善の策がどのようなものかが理解できるはずです。

〇ビジネス体験と米国史理解にもとづく見立て
 著者の渡辺氏はカナダ在住、三〇年にわたって米国・カナダでビジネスに携わってきました。近年は、幕末いらいの日米関係史を、米英資料をもとに捉え直すことをライフワークとして、『日本開国』『日本 1852』『日米衝突の根源1858―1908』の著訳書を上梓。『日本開国』では、米国がペリー艦隊を派遣した本当の狙いは、中国市場で英国の優位に立つための太平洋シーレーンの構築にあったことを明らかにしました(日本は〝米国の中国市場攻略の一つの駒〟の構図は、このたびのTPPのなかにそっくりそのまま見ることができます)。米国史への造詣の深さに加え、ビジネスマンとして、特許侵害裁判を含む数々の〝修羅場〟を体験した渡辺氏の見立ては、じつに正鵠を射たもので、TPPをめぐる論議が的外れなものとならないための必読書といえます。

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