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2012年3月16日 (金)

日本人が知らない 軍事学の常識

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兵頭二十八〔ひょうどう・にそはち〕=著

四六判上製 三三六頁 定価一八九〇円 二〇一二年三月


〇軍事をなおざりにしてきたツケ
 去る二月二十八日に発表された福島原発事故に関する「民間事故調」の報告は、案の定というべきか、菅前首相ら官邸の対応を「稚拙で泥縄的な危機管理」と評しています。何が、どの程度、危ないのかがわかっていない。近年の大事件・大事故対処を見てもわかるとおり、これはひとり官邸のみならず、日本人全体にいえることでしょう。危機管理能力、危険を察知する力が劣化していることは間違いありません。その背景の一つに、戦後日本が、軍事の方面から目を逸らしてきたことがあるように思われます。軍事の要諦は、彼我の戦力(=実力)や危険の度合いを見極め、最も合理的な対処法を追究することにあるはずで、こうした分野を忌避していれば、未曾有の事態を前に立ちすくむしかありません。本書は、軍事学の常識という観点から、米国、中国、韓国、北朝鮮、ロシア、そして自衛隊の掛け値なしの実力を測り、内外の危機の核心に迫ってこれを平易に解説したものです。該博な知識に裏打ちされた分析によって、世上に溢れる情報の真贋や国際関係のリアルな様相が浮かび上がり、一読、眼前の霧がきれいに晴れていく思いがします。

〇米中の本当の実力が見えてくる

 時代は変われど、米国、中国との関係は日本が最も真剣に考えねばならないテーマです。本書でも両国の実力のほどについては多くのページが割かれています(第2章、第5章)。それによれば、米国の軍事力は圧倒的で、かたや〝脅威論〟が喧伝される中国の軍事力は〝張り子の虎〟同然。中国のいちばんの恐ろしさは、国家ぐるみのハッカー、エリート・スパイ養成といったソフト・パワーによる攻撃、また近代ルールを溶解させてしまう〝腐敗力〟であると、著者の兵頭氏は断じています。「米国は中国軍の弱さを十分承知しているものの、これをあからさまにすれば議会で軍事費が削られる」「普天間と嘉手納の基地統合を阻むものは米空軍と米海兵隊の文化の違い」「米国は陰に陽に日本の安全保障に貢献しているが、その根底には日本を核武装させないという意思が働いている」等々の鋭い見立ては著者の真骨頂といえます。米国の対テロ対策の周到さ、無人兵器化への流れも紹介されていて、〝パンとサーカス〟にうつつを抜かす日本人の知らないところで、世界は猛スピードで変化しているのだと気づかされて愕然とします。

〇幼稚な先入観にとらわれないために

 国内に目を転じて、北方領土や尖閣、原発事故や大災害への対処法、MD(ミサイル防衛)の有効性、靖国参拝をどう考えるかについての解釈・提案もまた瞠目すべきものがあります。たとえば、「北方領土は三島で手打ちが合理的」「日本の政治家は八月十五日に靖国神社を参拝してはいけない」と著者は説いていますが、領土問題の起源や靖国神社の成立過程を知れば、意表をつくようなこうした提案がじつに正鵠を射たものであることがわかります。軍事的常識のスケールをあててみれば、幼稚な先入観にとらわれることなく、いたずらに恐怖心・敵愾心を煽られることもなく、地に足がついた判断が下せることを本書は教えています。日本が置かれた立場を客観的に見、危機の所在を知るために、ぜひとも多くの人に読んでいただきたい一冊です。

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