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2012年5月23日 (水)

昭和二十年 第一部=13 さつま芋の恩恵

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鳥居民 著 四六判 上製 320ページ 定価2940円 2012年5月


大著の待望の書き下ろし最新刊。
膨大な資料、独自の史観から描かれた日本の敗戦の一年

 本書は日本国民が敗戦という未曽有の体験に遭遇した昭和二十年という一年を一月から時間の推移にともなって描いた大著の第13巻です。この巻では7月1日から2日の状況を描いています。6月半ばには「時局収拾」という名の、和平への道を探る動きが顕在化し、天皇および内大臣木戸も心を定めたようです。ついては、ソ連の駐日大使マリクへの接触を広田弘毅に託していますが、じらされるのみでうまくいきません。トルーマンは原爆の投下について不気味な目論見を心に秘めているようです。6月23日に沖縄戦は牛島司令官の自決をもって終結を迎えました。大都市への空襲は鳴りをひそめ、米軍は6月半ばから地方の中小都市を狙うようになっています。7月2日には熊本、下関、宇部、呉の4都市が焼かれました。7月1日高松宮は高輪台の自邸にあるさつま芋畑で草取りに余念がありません。この巻はここから始まります。じつは自家菜園のさつま芋は食糧事情の悪い現在、誰もが飢えをしのぐために作っています。柳田国男、岡本潤、伊藤整などから、南太平洋に取り残されたパラオやマーシャルの兵士たちも畑を作り、栄養源にしています。フィリピン大使村田省蔵、ビルマ大使石射猪太郎は軍とともに撤退戦をつづけ悪戦苦闘して日本へ帰り着こうとします。現下の厳しい国内状況とやや小康状態に落ち込んだかの7月初頭をさまざまな角度から描く著者の筆致はいつにも増して圧巻です。
 本書の第1巻刊行は1985年であり、27年を経過しています。その間、丸谷才一、井上ひさし(故人)、立花隆といった当代一流の識者に最大級の賞賛を受けています。それは従来の敗戦史観、東京裁判史観、昭和史の俗流史観から、限りなく離れて、資料と史実、そして庶民の常識に立脚した著者の視点が新鮮だからです。
 著者は2010年に文藝春秋社より『山本五十六の乾坤一擲』を上梓しました。これは開戦直前昭和16年11月30日に山本が最後の非戦の上奏を行おうとしたのではないかという推論を説いたものです。半藤一利をはじめ名だたる昭和史研究家から完全な黙殺に会いましたが、この一事が著者の立場と視点をよく明らかにしています。歴史を読み解くには書かれていないことが重要なのであり、一番重要なことは個人の覚書には書かれていないことが多いという著者の指摘はなかなか理解されません。ただそう読み、そう考えるほうが明らかに事実に近いのではないかと本書を読み続けると理解できます。『木戸幸一日記』はこの期間の歴史の第一級資料ですが、著者はそこに隠された木戸の作為、歪曲を明らかにしており、資料を鵜呑みにしないことの重要さを教えてくれます。木戸批判を含む著者の筆は快調で8月15日の破局に向かっていよいよ佳境を迎えています。

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