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2012年5月23日 (水)

機械より人間らしくなれるか?
――AIとの対話が、人間でいることの意味を教えてくれる

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ブライアン・クリスチャン 著
吉田晋治 訳

四六判/上製/416頁/定価2,940円/2012年5月

◆人間らしさを競う「チューリングテスト」の大会で優勝するには、どうすればいい?

 機械が意識を持ち、人間のように思考することは可能か? 機械は人間らしくなれるのか? このような疑問に答えは出せるでしょうか。まだパソコンもインターネットもなかった1950年、イギリスの数学者アラン・チューリングがこの疑問に答えるためのテストを考案しました。
 「審判」役がコンピュータ端末を使って、姿の見えない「2人」の相手と5分間ずつ、チャットします。一方は本物の人間(「サクラ」役と呼ばれる)、もう一方は人工知能(AI)です。チャットが終わると、審判はどちらがより人間らしかったかを判断します。このとき、審判たちの30%がだまされるようなAIがいれば、それはもう人間と同様に思考し、意識を持っていると考えていいのではないか――。これが「チューリングテスト」、すなわち機械が人間のように思考できるかを測るテストです。しかし、いまだこのテストをクリアできたAIはいません。
 実は、年に一度、人工知能関連の学会でこのチューリングテストの大会が行われており、世界から優秀なAIが集まります。大会では審判役が、サクラ役の人間とAIのそれぞれとチャットして、どちらが「人間らしいか」を点数をつけて判断しますので、AIがチューリングテストをパスできなくても、出場したAIの中から「最も人間らしいコンピュータ」を決めることはでき、表彰されます。興味深いことに、この点数づけはサクラ役の人間にもなされるので、「最も人間らしい人間」を決めることもでき、この人もまた表彰されるのです(サクラ役を引き受ける人間も複数いる)。
 本書の著者ブライアン・クリスチャンは、このチューリングテスト大会にサクラ役として出場し、「最も人間らしい人間」賞を取ることを決意しました。そして、そのために万全の準備をして臨むことも。でも、「最も人間らしい人間」の称号を獲得するために、どんな準備をすればいいのでしょう?

◆ナンパ術から実存主義まで、広範な領域にわたり探究する科学ノンフィクション

 著者が探究した、(a)可能な限り人間らしく振る舞うにはどうすればいいか、(b)そもそも人間らしさとはなにか、という2つの問いは、ある面では哲学の問題でもあり、対戦相手となるAIのプログラミングの問題も絡んできます。また会話術の問題でもあるので、尋問術やナンパ術、お見合いパーティーでの話し方の問題とも無視しがたい関連があります。そのほかにも、情報理論、心理学、動物の知能の研究などとも深い関連があり、著者は大会の前に、これら分野の専門家に話を聞き、文献を読みあさることになりました。
 その過程で、人間が意外と「人間らしくない」ことが明らかになったり、AIの意外な弱点や、AIがチューリングテストにパスすることにどんな意味があるかということも明らかになっていきます。そして、私たち人間が、よりよく生きるためのヒントさえ、示されることになるのです。著者は、AIのおかげで、人間はより人間らしくなることができる、と言います。
 著者ブライアン・クリスチャンはコンピュータ科学と哲学、詩の芸術学でそれぞれ学位を取得した科学ジャーナリスト。広範な知識と取材から得た洞察には、人間を見る目を変える強い力があります。本書は「人間らしさ」とはなにか、生きているとはどういうことなのかという根源的な問いに迫る、希有な科学ノンフィクションとなりました。といっても、科学の基礎知識はまったく必要なし。すべての「人間」に読んでいただきたい一冊です。

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