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2012年7月23日 (月)

日米開戦の人種的側面 アメリカの反省1944

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カレイ・マックウィリアムス=著 渡辺惣樹=訳

四六判上製 四四〇頁 定価二七三〇円 二〇一二年七月

 〇太平洋戦争開戦史の最重要史料
 人種問題はきわめてデリケートな問題であり、軽々に論じることが憚られるテーマといえます。しかしながら、人種問題がときに現実の政治に重大な影響を与え、歴史を動かす要因となっていることは間違いありません。本書は一九四四(昭和十九)年に米国で出版されたPREJUDICE Japanese-Americans : Symbol of Racial Intoleranceの全訳で、真珠湾攻撃以降の米国における日系人強制収容の実態を描いたものです。著者のマックウィリアムス氏は一九〇五年、コロラド州生まれの法律家。一九三八年から四二年までカリフォルニア州の移民・住宅局長をつとめました。移民行政の現場にいただけに、本書では日系社会の特異性や世代間ギャップにまで踏み込みつつ、米西海岸で厳しい監視下にあった十万人の日本人移民の戦時下の悲劇を詳述しています(3章~6章)。
 本書は現在進行形(当時)の記録にとどまりません。同じく敵国となったドイツ系、イタリア系には及ぶことのなかった苛酷な取り扱いの背景として、一九〇〇年前後からカリフォルニアで激しくなった反日本人の動きを取り上げ、カリフォルニアと日本のあいだで起きていたこの局地的な〝戦争〟が、しだいに国家間の戦いへと拡大していく経緯を冷静な筆致で跡づけています。驚くべきは本書が太平洋戦争のさなかに書かれたことでしょう。戦後日本では、太平洋戦争の起源を内向きに捉えて反省材料にするといった傾向が強く、相手国たる米国の事情は看過されがちでした。人種問題という悪質な、そして双方の外交努力をもってしても克服し得なかった問題を米側が抱えていたと指摘する本書は、日米開戦史の見方を一変させるほどのインパクトを持つ重要史料といえます。

 〇誰が〝反日本人〟を煽ったか
 このように本書の真価は、カリフォルニアにおける日本人排斥が日米開戦へといたる歴史がたどられているところ(1章、2章、7章)にあります。大統領ですら抑え込むことができなかった日本人排斥の急先鋒となったのはカリフォルニアのアイルランド系移民です。日本人に仕事の場を奪われることへの恐怖、日本が日露戦争に勝利したのみならず憎しみの対象だった英国と同盟関係を結んだことからくる敵意がその背景にあります。これに労働組合、農民共済組織、新聞メディア(特にハースト系新聞)、政治家が加わります。黒人問題を抱える南部諸州の政治家、WASPの優生学論者もカリフォルニアの動きを後押しします。日本の軍部がカリフォルニアの日本人排斥を利用して強硬路線に転じたのは確かだが、しかし日本の軍部とて無から有を生みだしたわけではなく、原因を作ったのはあくまでもカリフォルニアであるとマックウィリアムス氏は断じています。
 本書を訳した渡辺氏は幕末以来の日米関係史を捉え直すべく米英史料を広く渉猟、『日本開国』『日米衝突の根源 1858―1908』(いずれも小社刊)を上梓していますが、本書はその資料収集の過程で発掘した一冊です。本書の優れた解説となっている「訳者まえがき」で渡辺氏は、カリフォルニアが当時の日本のエネルギー資源(石油)の生命線を握っていたことにも言及しており、この視点も含めて、一九〇八年以降の米国の動きを中心とした「日米開戦の起源」を鋭意執筆中の由です。

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