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2012年9月21日 (金)

北京は太平洋の覇権を握れるか
――想定・絶東米中戦争

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兵頭二十八[ひょうどう・にそはち]=著

四六判上製 二八八頁 定価一六八〇円 二〇一二年九月

○太平洋に出たいが、対米戦争は絶対に避ける
 日本を取り巻く絶東(=極東)のパワー・バランス(米・中・ロシア・朝鮮半島)をリアルかつ平易に解説し好評を得た兵頭氏の前著『日本人が知らない軍事学の常識』の応用篇ともいうべき一冊です。本書では、エネルギー資源確保のための南シナ海進出で横暴さを発揮する中国と、ナンバー2大国の突出を許さぬアメリカが、太平洋の覇権をめぐって激突した場合を想定、その戦況と周辺国が蒙るであろう影響をシミュレートします。
 米中の全面衝突が殆どあり得ないだろうことは、Ⅲ章「想定 米支戦争」で明らかです。米国の軍事力は圧倒的であり、テロとの戦い、アフガニスタンでの戦いを経て、たとえばヘルメットや防弾衣などの装備品にいたるまで、通常兵器の性能は格段にレベルアップしており、サイバー攻撃、生物化学兵器、宇宙空間での戦いに対する備えも周到に練られていることがわかります。一方の中国は、陸海空いずれの兵器も「見かけだけ最新鋭だが中身は旧式」といった代物。中国側はこの戦力格差を十分承知しており、正面切った対米戦争はどうあっても避けたいところです。しかし太平洋に進出しボルネオの油田を支配しない限りエネルギー面での安定ははかれず、これが叶わなければ共産党体制の崩壊は必至。こうした難題に直面している中国がいま何を考え、どのような戦略を立てているのか、本書の第一義は米中戦争のシミュレーションを通じてこれを正確に見通すことにあります。

○共産党体制の維持がすべてに優先する
 とにもかくにも共産党体制の維持が一番。これが中国の戦略を知るうえでの核心部分といえるでしょう。兵頭氏はこの四十年来の米中関係をふまえ、「党の存続こそすべて」の戦略について大略次のように見立てています(Ⅰ章)。
《米中国交正常化に先だち、ニクソン・毛沢東のあいだで「米中は互いに将来の核戦争の対手とならぬ」との密約が結ばれた。その後、ソ連崩壊を注視していた中国共産党は、このときにソ連共産党幹部の大弾圧もなければ、周辺国が攻め込んでくることもなかったのは、「米国と刺し違えることができる」はずの数百基のICBMをロシアが持っていたからだと見てとる。以来、中国は実質的な対米核抑止の立場を獲得するべく、密約を守っているかのように装いながら、軽くて大威力のW88級の水爆弾頭技術を米国から盗み、これを製造し(トータルで三十基)、偵察衛星から窺い得ない(陝西省にあるといわれる)横穴トンネルに隠す。こうしてアメリカとの「核対等」を密かに構築する一方で、自国の軍人たちにはボルネオや沖縄の領土化といった〝見果てぬ夢〟のごとき目標を与える。だがこれに必要な兵器・装備は与えず、リアルな国境戦争に向くかもかもしれない彼らのエネルギーをコントロールしつつ、周辺国に対して中国軍を恐れさせるように仕向ける》
 尖閣における挑発行為も、こうした戦略の一環としてみれば腑に落ちます。
 中国の行動の裏に隠された真の狙いを理解するうえでは今まさに必読の書。もちろん、第一級の軍事専門家である兵頭氏の、米中の最新の実力を冷静にとらえた分析は一頭地を抜いて読みごたえがあります。

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