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2013年3月

2013年3月27日 (水)

それでも戦争できない中国
――中国共産党が恐れているもの

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鳥居 民[とりい・たみ]=著

四六判上製 二二四頁 定価一六八〇円 二〇一三年三月

 ○独自の中国認識を披歴した最後の中国論
 ご承知のように、著者の鳥居民氏は去る一月四日、心筋梗塞のため急逝されました。鳥居氏は終生在野にあって、一切のイデオロギー的史観を排し、鋭い洞察力をもって日本の近現代史を描いた特異な歴史研究者であると同時に、現代中国の動向を正確にとらえた著作をものした希代の中国ウォッチャーでもありました。
 最後の中国論となった本書の原稿は二〇〇八年に執筆され、その後の情勢の変化をふまえて修正が加えられる予定でしたが、ライフワークであった『昭和二十年』の執筆に専念され、修正は叶いませんでした。しかしながら、6章「つぎの統一戦線工作」では、中国は尖閣諸島を利用して台湾を「反日・親中」に向かわせるだろうと指摘、直近の尖閣をめぐる動きはこの予測の確かさを証明しており、また、毛沢東の朝鮮戦争参戦と金門砲撃戦、江沢民の台湾沖でのミサイル演習を取り上げて党指導者の行動原理を解き明かした分析は、氏の独自の中国認識の核心部分でもあり、あえて執筆時のまま刊行することとしました。

 ○党指導部が抱きつづける「亡党亡国」の恐怖
 鳥居氏は、中国共産党指導部は建国いらい「亡党亡国」の恐怖に怯え、一党独裁支配を揺るがすあらゆるもの(党の分裂、民主化等の西側の思想)を排除してきたと見、鄧小平は民主化を断乎許さず、天安門の大弾圧を指示し、さかのぼって毛沢東が朝鮮戦争参戦を決めたのは、東北の覇者となって自らのライバルとなりそうな高崗を追い落とすためであり、台湾の金門島を砲撃したのは米国との緊張関係をつくりだすことで人民公社化を促進するためであった、江沢民のミサイル演習は台湾に戒厳令を布かせて台湾が民主政体となることを阻止するためであったと説きます。中国の挑発や戦いは二国間の軋轢に由来するものではなく、すべて「亡党亡国」を恐れる党指導者たちの生き残りの手段であり、この視点を抜きにして中国を見ることはできないというのが氏の中国認識の核心部分です。

 ○毛沢東流の軍事冒険ができない三つの根拠
「亡党亡国」の恐怖は、むろん共産党体制が続く限り変わりません。しかし書名にあるとおり、中国はもはやそのための毛沢東流の軍事冒険などできないというのが本書の主旨です。鳥居氏は「はじめに」において、「中国がこの先、台湾や日本に戦いを仕掛けるといった推測があるが、私はこれには与しない」と述べ、その根拠として三点を挙げています。すなわち、中国共産党の態度決定の原則は「穏定(=安定)が一切を圧倒する」で、これを変える利益はないこと。「未富先老」の束縛から逃れる術はないこと(深刻な少子高齢化)。太子党の中から「百人のスーパーリッチ」が生まれ、これが強力な圧力集団となっていることです。たとえば、世界経済に組み込まれ、その恩恵をどの国よりも多く受けている中国がひとたび戦いに打って出れば、経済活動はメチャクチャになって社会の穏定(安定)が崩れ、党の延命どころか、逆に「亡党亡国」にいたるであろうことは明らかです。
 となれば、尖閣をめぐる事態では、軍事的脅威を云々するよりもむしろ、挑発の背後にある国内問題を見きわめることが肝要。はからずも、鳥居民氏の〝遺言〟となった本書から今、汲みとるべきはまさにこのことではないでしょうか。

2013年3月22日 (金)

2013年版 プロ野球 問題だらけの12球団

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小関順二・著

四六判並製/208ページ/定価1575円

●「センターライン」に注目することで見えてくる12球団の眼力・胆力●
 プロ野球界では、技術面だけでなくチーム作りにおいても常に新たな方法論・考え方が生まれています。主力が抜けても戦力が落ちない日本ハムのチーム作りに注目が集まっているのも、そうした状況を反映したものといえるかもしれません。多種多様な方法論が覇を競いあう球界において、一貫して有効でありつづけているのが「センターライン」を軸としたチーム作りという考え方です。そこで本年度版では各球団のセンターラインの変遷に注目して、チーム作りの思想を検証しました。ドラフトでの指名から選手育成の姿勢まで含めて、12球団は「チームの背骨」をどんなふうに確立しようとしているのか。そこからは、各球団のチーム作りの巧拙がまざまざと浮かび上がります。プロ野球を見るのがさらに面白くなる一冊です。

【本書から】
●巨人は他球団にくらべて、スタメンに占めるドラフト1位の割合が圧倒的に高い。センターラインの礎である捕手が12年間、不動なのは大きい。
●阪神のドラフト1位・藤浪晋太郎の甲子園での成績は松坂大輔をも凌ぐ。甲子園史上ナンバーワン投手の称号がふさわしい逸材だ。
●横浜はじつは巨人に次いでFA選手を獲得しているのに機能していない。ポジションではなく「名前」で獲って失敗を続けているのはフロントの責任。
●日本球界の人材は投手に偏りすぎている。投打ともに高いポテンシャルを示している大谷翔平(日本ハム)には、ぜひ打者で勝負してほしい。
●逆指名ができなくなった2008年以降のドラフトで良い指名をしていると
言えるのは西武、ソフトバンク、巨人、広島の4球団。ドラフト指名が上手い球団は、制度が変わってもやはり上手い。

2013年3月21日 (木)

あなたの心を操る隣人たち
――忍びよる「マニピュレーター」の見分け方、対処法

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ジョージ・サイモン著/秋山勝訳
四六判変型/並製/240頁/定価1680円(税込)/2013年3月

誰にもわかってもらえない「心の暴力」から身を守るために
 DVなどの暴力行為とちがう「見えない暴力」が、じつは多くの人を苦しめています。言葉や態度によるいやがらせ、と捉えてもいいのですが、それが他の人にはわからないような形で、場合によっては被害者本人にもわかならい形で繰り返されることが多いのです。
 本書は「マニピュレーター(操るもの)」と呼ばれる「心の暴力」をふるう人たちとその被害者を対象とした豊富な臨床経験を持つ心理学者による、この問題の対処法です。アメリカでも25万部を売るベストセラーとなっています。
 会社の上司、同僚、あるいは部下。学校の友人や近所の隣人、さらには夫や妻、子供。この問題はあらゆる人間関係にひそんでいます。
 社会的には問題のない「いい人」に見える人物が、陰にまわると特定の人物を標的に繰り返し言葉や態度で執拗に攻撃をしてきます。それは、いやがらせとはわかりにくい形も多く、被害者のほうも自分が犠牲になっていると気づきにくい。むしろ悪いのは自分のほうかもと反省し、相手の攻撃性に気づかないことが多いそうです。その悩みは誰にもわかってもらえず、結果として自信を失い、自己嫌悪の抑うつ状態に陥ってしまうのです。
 著者はこの問題の加害者を「潜在的攻撃性パーソナリティ」と位置づけて分析を重ねてきました。彼らの行動の特徴、その見分け方、さらには被害者になりやすい人の特徴を明示して、まずは問題の存在を認識することからはじめ、いかに毅然と対応して自信と誇りを取り戻すか、その具体的な方法を教えてくれます。人間関係の問題に悩み、苦しむ人たちにとって福音ともなる一冊です。

2013年3月13日 (水)

最後の日まで毎日が贈り物
――がんと共に生きた医師の18か月のメモワール

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リー・リプセンタール著 小西敦子訳

46判上製/192頁/定価1680円

◇最高の「死ぬ準備」は、日々を精一杯生きること――
 この本は、52歳の若さで余命1年の末期がん(食道がん)と宣告されたアメリカ人医師が、残された時間を自分らしく過ごすためにしたこと、考えたことを率直に綴った手記です。原題は「Enjoy Every Sandwich」で、著者は人生をサンドイッチに見立て、その一口ひとくちを味わい、日々をエンジョイすることが大切であると説いています。がんに対して「闘いモード」で挑めば、患者は最後にはかならず敗者になってしまいます。そうではなく、人生を精一杯に生きることは病の有無とは関係ない、という気づきこそが大切なのだと著者は説くのです。「自分の余命、抗がん剤治療、放射線治療、そして愛する人々を助けられない無力さに直面したことが、私にとって人生最大のチャレンジ」になったと述べる著者ですが、そのことで「これまでにない生命力を実感した」とも書いています。思いもよらないタイミングで人生の最終章を迎えることになっても、著者の日常はそれまでにない輝きを見せるのです。「あなたもいつか自分の寿命と向き合うだろう。そのとき、人生をじゅうぶん生きて、何の後悔もなく、よく愛したと思えるように願ってやまない。その日が死ぬのによい日になることを願う」という一文で本書は結ばれています。死について考えることは誰にとっても簡単ではありませんが、毎日を精一杯生きることこそが、じつは最高の「死ぬ準備」なのだと気づかせてくれる本です。

【目次より】

○運命のBLTサンド――がんが見つかった 
○死の影――「死ぬのにいい日」を探して 
○苦悩はオプション――口を閉じて静かに座る 
○重病人ほど健康的――勝てないものとは闘わない 
○まだ行ったことのない場所――最良の自分と最悪の自分を知る 
○闇のなかで手さぐり――マイナスをプラスに変える 
○「箱」から出る日――その日がよい日になるように 

「日本国憲法」廃棄論
――まがいものでない立憲君主制のために

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兵頭二十八[ひょうどう・にそはち]=著
四六判上製 二五六頁 定価一六八〇円

 ○制定までの半世紀の歴史をふり返り、「廃憲」を説く
 戦後何度となく俎上にのぼった憲法改正問題ですが、ここにきて「改憲」に意欲を示す安倍首相の下、いよいよ現実味を帯びた論議が始まる気配となっています。本書は、十九世紀後半に、少数の賢人が世界を統治するというプラトン流の理想社会を夢見たH・G・ウェルズの思想(「世界単一政府」構想)から説き起こして現行憲法制定にいたる半世紀をたどり、マッカーサー占領軍(=米国)が作成した憲法草案を日本側が〝丸呑み〟するまでの経緯を明らかにしたうえで、現行憲法は改めるのではなく廃棄すること(廃憲)が日本国民の自由と安全を守るためには最善であると説いたものです。

 ○世界の思想潮流を読めず、自己正当化を怠ったツケ
 著者兵頭氏が廃憲の根拠とした制定までの歴史は第2部で叙述されていますが、これが本書の中核をなすものであり、軍事をはじめとする該博な知識が横溢し、まさに圧巻。ぜひとも精読していただきたいところですが、以下にこれを要約します。
〈一九四一年、ウェルズの思想に影響を受けた米大統領F・D・ローズヴェルトは年頭の一般教書演説において「四つの自由」を打ち出す。その含意は、超大国アメリカが侵略国家を武装解除させ、最終的に世界軍縮を実現させるというもの。一方、日本は同年十二月の開戦奇襲を「自存自衛のため」という、きわめて内向きの説明で済ませたことから(ヒトラーやスターリンの「開戦説明」が長々と自己正当化の文言を並べているのとは対照的で、世界への発信力に欠けていた)、結果、日本はローズヴェルトがいうところの「侵略国家」であるとの認識が確定。ウェルズ、ローズヴェルトら欧米の思想潮流を遠因とし、日本側の「開戦説明」のお粗末さが格好の材料となり、日本から自衛権すら明白に奪おうとする憲法草案が作られる。マッカーサー占領軍は天皇制維持の保障を曖昧にしたまま、梨本宮元帥逮捕、左翼勢力の容認といったプレッシャーをかけつづけ、ついに日本の要路はこれを受け入れることとなった〉
 兵頭氏はこの経緯をふまえて、現行憲法は連合国が占領軍を通じて占領下の他国民に無理やり押し付けた(このこと自体が「ハーグ陸戦条規」違反)珍妙無類の「偽憲法」であると断じ、「改憲」はすなわち、自由な立場の日本国民がわざわざ意志的に「偽憲法」を追認することを意味すると述べ、まずはこれを廃棄すべきであると説くのです。

 ○改憲vs.護憲のパラダイムに転換を迫る斬新な主張
 では、廃棄したあとはどうするのか。国民の団結をはかるためにも、また、独裁政権のような「特権の暴走」を許さないためにも、まがいものでない立憲君主制を取り戻すことが必要だとする兵頭氏は、「日本は立憲君主制の近代国家である」と明快に言語化した「明治憲法のバージョン2」を作るべきであると主張します(「まえがき」と第3部で詳述)。いま為すべきなのは、現行憲法の改正ではなく、明治憲法の改正であるとの主張は斬新です。内外の情勢の変化を見れば、条文解釈の相違に収斂していく改憲vs.護憲のパラダイムは、もはや通用しないのではないでしょうか。こうしたなか、歴史に鑑みて第三の選択肢を示した本書は、まことに時宜にかなった一冊と思われます。

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