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2013年5月

2013年5月30日 (木)

映画 果てしなきベスト・テン

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山田宏一(やまだ・こういち)著/和田誠装丁・イラスト
四六判、並製、480ページ、定価2730円/2013年5月

とにかく面白い映画を見たい人は、必見・必読の指南書。
自伝的エピソードを織り交ぜながら、古今の映画のベストを綴る。

●古今、東西の映画を見尽くした上でのベストとはどれだ
  著者は多くの映画ファンから今、日本でもっとも信頼できる映画評論家と支持されている存在です。これまで『マキノ雅弘自伝』の聞き書きから、『映画術 ヒッチコック/トリュフォー』の訳出、『トリュフォー ある映画的人生』(ドュマゴ文学賞)の執筆など、多くの仕事を通して、実証的で刺激的な、ある種の映画評論活動を続けてきました。本書はこれまでベスト・テンやベスト50やベスト100などを選ぶことを求められ、機会あるごとに書いてきた文章や、自らの映画体験を回顧しつつ、どんな映画こそ面白いのか、優れているのか、時代を超えて見るに耐えうるのかを、たくさんの映画タイトルや映画の紹介を交えて綴った映画エッセイです。おそらく著者は数万本の映画を見続けてきた、日本一の映画ファンでもあるでしょう(淀川長治氏や双葉十三郎氏のあとを継ぐ)。氏の推奨する映画は何か、どれが面白い映画なのか、ここに載せられた映画タイトルを見るだけでも、映画ファンならずとも大いに参考になるでしょう。

●自由に無数のタイトルから選ぶ時代にこそ必要なガイド
 著者の一貫した主張は「日本映画や外国映画といった垣根を取り払い、また時代を超えて『映画』そのものを見よ」ということです。ここには浅薄な、あるいは狭量な現今の映画評論への批判が込められています。
 1950年代のベスト163本、これでやみつきになった10本、果てしなきベスト150本、犯罪・ミステリー映画ベスト22、時代劇映画ベスト・テン、日活ロマンポルノ・ベスト12、わが心の名画座ベスト100などなど、ここにはさまざまなベストが紹介されています。ちなみにある時点の著者のベスト・テンを紹介してみましょう。
① キートンのカメラマン②ピクニック(ルノワール)③ハタリ!④黄金時代(ブニュエル)⑤気狂いピエロ⑥鳥⑦上海から来た女⑧フェリーニの道化師⑨静かなる男⑩街の灯
 ここにはまさに「映画とは何か」「映画的魅力の本質とは何か」について考察を続ける氏の評論活動の面目躍如たるものが感じられます。
 本書は映画エッセイでもありますが、何より面白い映画を観るための映画ガイドとして役に立ちます。レンタルやネットで無数のタイトルの中から自由に映画を借りられるようになった今、これは本当に役に立つ映画ガイドでもあります。 

2013年5月15日 (水)

満州航空の全貌
――1932~1945:大陸を翔けた双貌の翼

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前間孝則著

四六判/上製/416頁/定価2730円(税込)/2013年5月

謎に満ちた「世界に類例のない航空会社」の全貌を初めて描く
 1931年、満州国建国にともなって創設された「満州航空株式会社」。総延長航路2万8千キロ、満州全域に定期航空路網をもち、最盛期には8千人もの従業員を擁した同社は、民間輸送のみならず測量や航空機製造などまで広範に行う、「世界に類例のない」と評された特異な航空会社だった。

 しかし1945年、日本敗戦の直前のソ連軍侵攻を受けて関係資料はことごとく廃棄されたため、この会社の実態の多くは謎につつまれたままだった。航空・技術関係の名著を多数著してきた著者は、数年の歳月をかけてその断片的な資料を読み込み、関係者への直接の取材を重ねてこの「満州航空」の全貌を一冊にまとめあげた。
石原莞爾、関東軍、そして歴史を動かした「極秘の飛行」

 満州航空の特異性は、民間航空活動の一方で「軍」の任務も遂行するというもう一つの貌(かお)を持っていた点にある。それは「軍民両用」「ヒツジの皮をかぶったオオカミ」とも評せられた。陸軍のエース級パイロットを擁し、石原莞爾の関東軍との関係は深く、張学良の拠点の錦州爆撃など満州事変以降のさまざまな歴史的局面で極秘裡の飛行が数々あったという。(本書カバー写真は、錦州に空路より降り立った石原ら一行。毎日新聞社提供)

 本書は、歴史の巨大なうねりのただなかを、軍民両用の貌をもって翔けぬけた「満州航空」という唯一無二の航空会社の、誕生から消滅までの全貌を初めて明らかにした渾身のノンフィクション作品である。

目撃者

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エルンスト・ヴァイス著 瀬野文教 訳

46判上製/336頁/定価2940円/2013年5月

 ◇ナチスに追いつめられて自殺した亡命作家の遺作◇
 この作品の著者エルンスト・ヴァイス(1882年~1940年)は戦間期のドイツ文壇で活躍したユダヤ系作家で、『目撃者』は彼がパリで自殺する直前に書き上げた作品です。フランツ・カフカとは青春時代からの友人で、トマス・マンやシュテファン・ツヴァイクといった作家たちとも交遊し切磋琢磨しあう仲だったヴァイスですが、この作品は長いあいだ歴史の闇の中に埋もれていました。本作品がドイツで刊行され、生身のヒトラーが登場する小説として話題になったのは、その死から四半世紀近くが過ぎた1963年のことです。

 第一次世界大戦後のベルリンで前衛派の旗手として活躍していた著者は、ヒトラーが政権をとったのを機にドイツを離れ、パリに移住しました。しかし異国での暮らしは多難なもので、時に旧友のツヴァイクに資金援助を受けるまでに経済的にも困窮していたといいます。そんな生活の中で、アメリカの文化振興団体がドイツ語圏の亡命作家支援のために懸賞小説を募集しているのを知って書き上げたのがこの『目撃者』でした。結局、この作品は受賞を逃し、まもなくヴァイス自身も自死を遂げたために、この小説は長いあいだ、陽の目を見ることがなかったのです。

 戦場で毒ガス攻撃を受け失明状態に陥っていた「A・H」を治療し、この男の中に眠る全能感を呼び醒ました医師が半生を語る――という形式で展開するこの異色の小説は、ヒトラー研究者のあいだでも大きな反響を呼びました。『アドルフ・ヒトラー』などで名高いピューリッツァー賞作家のジョン・トーランドは、本書の英訳がアメリカで出版されたさい、「エルンスト・ヴァイスの『目撃者』が出版されたことは重要な歴史的発見だ。これはフィクションの衣を着たおどろくべき歴史の一幕である」とさえ評しています。本書が1930年代末というナチスの最盛期に書かれたことを意識しながら読んでいただければ、この作品の持つ意味がより深く理解できるのではないかと思います。第二次世界大戦へとひた走る危機の時代、その時代の気配を濃密に味わうことのできる一冊です。

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