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2013年6月

2013年6月28日 (金)

日米衝突の萌芽 1898 ― 1918

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渡辺惣樹[わたなべ・そうき]=著

四六判上製 五六八頁 定価三六七五円

○日米開戦に至る壮大な歴史ドラマ
 渡辺惣樹氏は二〇〇九年に上梓した『日本開国』で、日本に開国を迫ったアメリカの本当の狙いはイギリスの後塵を拝した対支那(清国)貿易拡大のためのシーレーン確保にあったことを明らかにしました。いらい渡辺氏は開国に始まる日米関係をアメリカ近代史の視点を軸として描くべく、埋もれていた文献から最新の研究論文まで米英資料を広く渉猟。二〇一一年に刊行し高評価を得た『日米衝突の根源 1858―1908』はその成果の一つであり、本書はその続編にあたります。この『日米衝突の根源』で渡辺氏は、太平洋をめぐる日米衝突(太平洋戦争)の原因を探ることをテーマと定めたようです。日米開戦に至る壮大な歴史ドラマの始まりです。おさらいになりますが、『日米衝突の根源』では、日米修好通商条約締結(一八五八年)の時代にさかのぼり、南北戦争、米西戦争、西漸運動、日露講和の仲介、西部諸州の人種偏見、保護貿易を基盤とする経済システム等をとりあげて米国の行動原理を解き明かすとともに、英国をはじめとする欧州の干渉を恐れ、貧弱な軍事力を自覚し日本の優秀な海軍力を恐れる米国の姿を浮き彫りにし、フィリピンやパナマ運河の戦略上の意味に新たな光をあてて、やがて来る日米開戦の不可避性を示しました。

 ○〝いい加減〟な歴史観を払拭する
 本書では、前著と重なる一八九八年(米国のフィリピン領有)から説き起こし、第一次大戦の停戦にいたる二十年間が描かれています。この二十年は、リアルポリティクスの権化ともいうべきセオドア・ルーズベルトが日本と事を構えてはならないことを主眼としてつくりあげた、クリスタル細工のような日米関係が徐々に崩れていくプロセスでもあったのですが、その経緯を俯瞰することによって、第一次大戦がはっきりと第二次大戦に繋がっていたこと、列強のせめぎ合いの中で日本は懸命の外交努力をしたこと、日本が第一次大戦の戦勝国となったのは〝棚ぼた〟式ではなかったこと、すでにこの時期に日米開戦の萌芽がみられたこと、が理解できます。さらに言えば、日米開戦の原因を日本にのみ求めて済ませる歴史観がいかに不勉強で〝いい加減〟なものであるかがわかるのです。
 内容の濃い本書を要約するにはとうてい紙幅が足らず、代わりに日米開戦史を考える上では外せないと思われる点をいくつか、以下に箇条書き風に挙げておくことにします。

▽ルーズベルトに続く大統領タフトは日本嫌いのチャイナハンズ、ウィラード・ストレイトの影響を強く受けていた。「民族自決」を謳った大統領ウィルソンは白人と黒人の隔離政策を進め、その本質は白人優位・人種差別主義者であった。
▽太平洋・大西洋の二正面のジレンマを抱えるアメリカは、パナマ運河の開通、FRBの創設によって欧州列強を凌駕するためのすべての準備を整えた。
▽アメリカは日本の目がフィリピン方面(南方)に向かうことを何よりも恐れ、朝鮮・満洲方面にその関心を留めるために桂・タフト密約を結んだ。
▽ドイツは日英関係に楔を打ち込むべく、日英同盟のサイレントパートナーたるアメリカに向け、日本が米国のバックヤード、メキシコで不穏な動きをしていると伝えて謀略を仕掛けるが、奏功しないと見ると逆に日本に秋波を送る。

2013年6月21日 (金)

幕末明治  不平士族ものがたり

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野口武彦・著   
四六判・上製/352頁/定価1890円(税込)

明治という国家権力に抗い、「維新のやり直し」に命を捧げた男たちの秘史

 明治維新によって栄達の道を歩んだのは、ほんの一握りの武士だけであった。大半の武士たちにとっては、じつに過酷な運命が待ち受けていた。廃藩置県、廃刀令などで、武士の特権が次々に剥奪された。維新後に開かれた議会はほどなく形骸化し、言論も封殺された。もはや、武力に頼るほかなかった。ここに、「不平士族」とよばれる、政府要人暗殺や武装反乱を企てる一団が生まれることになる。
 本書は8つの短編からなる。死して神と合一することにこそ生の充実が見出されるという、その非政治性がユニークな熊本神風連の乱を描く「天(あめ)の浮橋(うきはし)」。維新の英雄にして明治の逆臣とされる西郷隆盛の死の真相に迫る「城山の軍楽隊」。前原一誠の萩の乱に関東から呼応しようとしてあえなく挫折した「思案橋事件」。清濁併せ呑む政治家になれず、薩長藩閥に真正面から対峙した天才詩人志士・雲井龍雄の悲劇「雨の海棠(かいどう)」。尊攘派志士として実績・名声を誇りながら、酒グセが悪く大村益次郎暗殺に誘われなかった男の悲喜劇「酒乱の志士」。明治維新の進路をめぐる意見の対立が、いつの間にか「国家転覆の企てあり」と見なされ、法的根拠無しに無惨に処刑された人々を描く「国事犯の誕生」。 
 話題は、明治初年の政治史の蚊帳の外に置かれた“不平士族”にも向けられる。萩の野山獄で出会った吉田松陰に露骨に対抗心を燃やしていたが、幕末の風雲のさなかに突如雲隠れして生き残り、明治後は山口県の片田舎で松下村塾メンバーを上から目線で評し続けた奇怪な老人を描く「雲の梯子(はしご)」。幕臣時代を不遇に過ごし、維新後、生計を立てるためにやむなく外務省に奉職したが、周囲の官吏たちの無能を罵倒し尽くした末に外務省に辞表を叩き付けた男の滑稽譚「骸骨を乞う」。 
 どの作品も広範な史料をもとに紡がれた小説で、その筆致はぐいぐい読ませるものがある。読者は幕末明治の空気感を味わいつつ、明治初年代の激動の史実を理解できる。幕末維新といえば、倒幕に燃える志士たちの躍動や、佐幕側の滅びの美学が描かれるのが常だが、本書を読めば、明治維新「後」にもドラマがあり、明治という近代国家建設の過程で、これほど多くの士族たちの血と挫折が流れていたことに驚かされるであろう。多くの歴史ファンに堪能していただけること請け合いの作品である。

甲虫 カタチ 観察図鑑

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海野和男(写真と文)

A4変形 並製 132ページ 定価2310円


驚くべき精度、超拡大写真でとらえた奇怪で美しい、甲虫の身体、色、部分。

 カブトムシやクワガタムシからタマムシ、オサムシ、コガネ、ハンミョウなどまで、昆虫の中でも最も大きいグループをなす甲虫類はとても人気があり、見た目も面白い。ピカピカして、ときとして虹色に輝くタマムシやコガネなどの身体。カブトムシやクワガタは大きな角や大顎で格闘する。ゾウムシの奇怪な悪夢のように見える形態。色、模様、形態など、甲虫の造形の秘密に迫った写真中心の図鑑が本書です。

 昆虫写真の第一人者である著者が超クローズアップで捉えた迫力ある生態写真や標本写真が、これこそ造化の妙と言える世界を見せてくれます。特に、これだけクリアで精密な写真、接写で大きく捉えた写真は他の類書には見られないものです。著者は何十枚ものピントをずらした写真を撮影し、パソコンを使い合成し、隅々までクリアな画像にすることに成功しています。高画質カメラやパソコンによる合成技術の発達がこれを可能としました。夏休みの自然観察の副読本として、大人から子供まで楽しめる図鑑となっています。

2013年6月19日 (水)

米・中・ロシア 虚像に怯えるな
――元外交官による「日本の生きる道」

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河東哲夫(かわとう・あきお)

四六並製 二五六ページ 定価一九九五円

武装中立か?核武装か?日米同盟堅持か?
アワてない、常識にもとづいた日本の選択。

●極端に走りがちな言論に、目を覚ませと警告
 元ウズベキスタン大使を務めた外交通の著者が、日本の進むべき道を本音で綴った政治・外交エッセイです。いまや日本の外交は、中国の台頭によって激しく揺れています。反中、嫌中、親中の意見が入り乱れ、また一方で、反米、嫌米、親米も激しく論議されています。冷戦の終焉やグローバル経済の進展によって、日本の進むべき道は定かならぬものとなっています。特にネット右翼による反中の激しい扇動、また戦後の対米従属外交への怨みに満ちた反米の左翼的言説などが、世論を惑わせつつあります。しかし、ひとたび冷静に立ち返ってみればわかるでしょうと、著者は言います。常識的な判断からすれば、日本の安全保障はどうすれば保たれるのか。核武装することなのか。武装中立なのか。等距離外交なのか。外交官としての三〇年以上の体験や、現地の人との交わりをもとに考察した結論と外交論が本書なのです。

●米・中・ロシアの行動原理を歴史的・体験的に解読
 アメリカへの不信感が一部マスコミを覆っています。イラク戦争の経過や、中国との頭越し外交、荒れ狂う金融市場主義などが日本国内にアメリカは頼りになるのか、戦後対米従属を清算しろという言説を密かに流布させています。しかし、本当にアメリカはそういう国なのか。かつて日本を対米戦争に引き込み、原爆を落とし、占領した国家であるが、一党独裁の中共よりも、またエネルギー外交を進める強権的ロシアよりも、まだマシではないのか。三つの大国の狭間で生きるしかない島国日本の安全はどう保たれるのか。また明治維新時に戻ってしまったかのような現今の状況のなかで、地政学的視点や歴史的な三大国の行動原理の分析(ここがものすごく面白い)を通じて、政治主義的な偏りのない一般庶民の納得の行く結論を導き出す著者の論旨は明快です。
 参院選を控え、日本の進路をめぐって大いなる政治の季節を迎える今、本書は極めて興味ある論点や視点を提示しています。ぜひ一読してください。

発達障害の子どものための 体育の苦手を解決する本
――「できた!」のよろこびが、子どもの自信とやる気を育む

1984













スポーツひろば(http://p.tl/A5i6)代表 西薗一也 著 

四六判並製/176頁/定価1470円

●のべ1500人を超える運動が苦手な子を救ってきた、元祖「体育の家庭教師」

 元祖「体育の家庭教師」西薗一也先生による、初めて発達障害児に向けた体育指導についての本です。
 発達障害の子どもを持つ親御さんの大きな悩みの一つが「子どもが学校の体育の授業についていけない」ことです。西薗先生が主催するスポーツひろばには、全国でも数少ない発達障害児専門の運動クラスがあり、毎年春になると困っている親御さんからの問い合わせが殺到するほどの、つねに満員の超人気クラスになっています。

 西薗先生はこれまで指導してきた500人を超える発達障害の子どもたちとの体験から、運動ができないこと自体は大きな問題ではなく、その背景に、子どもたち自身が、自分を肯定する気持ちや自信を失っていることがより深刻な問題であると指摘しています。つまり、発達障害の子は、不器用で体をうまく動かすことができないことで、まわりから長い間「ダメな子」「できない子」とみられ続けてきたという経験を持ち、身体面だけでなく精神面でも非常につらい思いを抱えこみやすく、心に染み付いた「自分はできない子なんだ」との思いは本当に根深いといいます。

 そのため西薗先生の教室では、まず子どもたちに「できない」「ゼッタイムリ」「やったってダメ」というネガティブワードを使うことを禁止するところからレッスンを始めます。先生は何度もくりかえし「できなくてもいいよ」「できないところを見せてもらうのが先生の仕事だよ」と声をかけ、子どもを安心させて徐々にやる気を引き出し、運動をする気持ちと姿勢をつくっていくのです。こうした心と体を同時に成長させていこうとする西薗先生の指導法は、どうしても「鉄棒をできるように」「跳び箱を跳べるように」「縄跳びが続くように」と種目自体の向上ばかり考えてしまいがちな、親御さんにとっても、目からウロコの大変役に立つ内容になっているかと思います。
 本書では、具体的な体育の上達のコツはもちろんのこと、運動を通じて自信を取り戻し、生活面、身体面、精神面に著しく変化があったというお子さんたちの実例も多数紹介しています。

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