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2013年6月21日 (金)

幕末明治  不平士族ものがたり

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野口武彦・著   
四六判・上製/352頁/定価1890円(税込)

明治という国家権力に抗い、「維新のやり直し」に命を捧げた男たちの秘史

 明治維新によって栄達の道を歩んだのは、ほんの一握りの武士だけであった。大半の武士たちにとっては、じつに過酷な運命が待ち受けていた。廃藩置県、廃刀令などで、武士の特権が次々に剥奪された。維新後に開かれた議会はほどなく形骸化し、言論も封殺された。もはや、武力に頼るほかなかった。ここに、「不平士族」とよばれる、政府要人暗殺や武装反乱を企てる一団が生まれることになる。
 本書は8つの短編からなる。死して神と合一することにこそ生の充実が見出されるという、その非政治性がユニークな熊本神風連の乱を描く「天(あめ)の浮橋(うきはし)」。維新の英雄にして明治の逆臣とされる西郷隆盛の死の真相に迫る「城山の軍楽隊」。前原一誠の萩の乱に関東から呼応しようとしてあえなく挫折した「思案橋事件」。清濁併せ呑む政治家になれず、薩長藩閥に真正面から対峙した天才詩人志士・雲井龍雄の悲劇「雨の海棠(かいどう)」。尊攘派志士として実績・名声を誇りながら、酒グセが悪く大村益次郎暗殺に誘われなかった男の悲喜劇「酒乱の志士」。明治維新の進路をめぐる意見の対立が、いつの間にか「国家転覆の企てあり」と見なされ、法的根拠無しに無惨に処刑された人々を描く「国事犯の誕生」。 
 話題は、明治初年の政治史の蚊帳の外に置かれた“不平士族”にも向けられる。萩の野山獄で出会った吉田松陰に露骨に対抗心を燃やしていたが、幕末の風雲のさなかに突如雲隠れして生き残り、明治後は山口県の片田舎で松下村塾メンバーを上から目線で評し続けた奇怪な老人を描く「雲の梯子(はしご)」。幕臣時代を不遇に過ごし、維新後、生計を立てるためにやむなく外務省に奉職したが、周囲の官吏たちの無能を罵倒し尽くした末に外務省に辞表を叩き付けた男の滑稽譚「骸骨を乞う」。 
 どの作品も広範な史料をもとに紡がれた小説で、その筆致はぐいぐい読ませるものがある。読者は幕末明治の空気感を味わいつつ、明治初年代の激動の史実を理解できる。幕末維新といえば、倒幕に燃える志士たちの躍動や、佐幕側の滅びの美学が描かれるのが常だが、本書を読めば、明治維新「後」にもドラマがあり、明治という近代国家建設の過程で、これほど多くの士族たちの血と挫折が流れていたことに驚かされるであろう。多くの歴史ファンに堪能していただけること請け合いの作品である。

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