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2013年9月

2013年9月27日 (金)

インドネシア 9・30クーデターの謎を解
――スカルノ、スハルト、CIA、毛沢東の影

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千野境子[ちの・けいこ]著

四六判上製 二八八頁 定価二二〇五円


○ベトナム報道一辺倒に紛れた大事件

 米オバマ政権のアジア回帰、南沙諸島方面への中国の進出、東南アジア地域との関係強化を打ち出した安倍外交。こうした状況を受け、近年、東南アジア地域にはかつてない関心が集まり、それとともにASEAN(東南アジア諸国連合)の存在感がいっそう際立ってきた感があります。このASEANは、一九六五年にインドネシアで起きた大事件を機に、二年後の六七年、共産主義の波及を食い止めることを旨としてつくられました。その大事件とは六五年十月一日未明に起きた「9・30事件」と呼ばれる、インドネシア陸軍左派軍人らによるクーデター(未遂)事件です。
 親米・反共色の強い陸軍上層部内に、容共へ急傾斜するスカルノ政権転覆をはかる動きがあるとして、左派軍人らが七人の将軍の拘束計画を立てて決起。その後革命評議会設置を宣言するのですが、標的となった七人のうち六人がその場で殺害されるか、重傷を負ったうえで惨殺され、しかも最大の標的だった将軍は辛くも難を逃れていました。直ちにクーデター鎮圧にあたった陸軍戦略予備軍司令官スハルトは、事件の首謀者は当時党員三百万を擁し、中共党に次ぐ勢力を誇っていたインドネシア共産党(PKI)だったとして同党に大弾圧を加えます。結果、数十万とも百万単位ともいわれる〝大量虐殺〟が発生、スカルノ(親共)からスハルト(反共)への政権交代に繋がり、さらには東南アジアの政治地図をも塗り替えることになったのですが、同年二月に始まったアメリカの北爆以降のベトナム報道一辺倒の陰に隠れ、事件の重大性が認識されるのはずっと後になってのことです。それでもいまだ事件の核心は〝闇の中〟。最大の謎、「誰がクーデターの黒幕だったのか」が解明されないまま事件は歴史の彼方に消えようとしています。

○最大の〝使嗾者〟は毛沢東か
 さて、クーデターの本当の黒幕は誰だったのか。本書は、産経新聞シンガポール支局長時代に9・30事件を取り上げて特集連載を執筆していらい、十五年余にわたって事件を調べてきた著者が、外交公信・公電等々の資料を使って事件の顛末を再構成。サブタイトルにある四者のいずれが黒幕であってもおかしくないと述べ、それぞれの関与の度合いを検証して、きわめて蓋然性の高い答えを示した出色のドキュメントです。注目すべきは中国の動きです(第五章)。米中戦争を恐れ、アジア各地のゲリラ闘争を煽ることで米軍の戦力を分散させようと考えた毛沢東。毛による粛清を恐れ、毛の関心をインドネシア革命に振り向けようと考えた周恩来ら側近。とくに後者の思惑が、PKIを使嗾してクーデターを実行させる動機となったのではないかとの見立てには、クーデター失敗から二カ月後に毛沢東の奪権闘争=文化大革命が始まったことに鑑みても説得力があります。冷戦の角逐場となったインドネシアの悲劇というべきでしょうか。
 著者は優れた東南アジア報道によりボーン上田記念国際記者賞を受賞した第一級のジャーナリスト。その筆致はあくまでも冷静ながら、長年の特派員経験に裏打ちされた鋭い国際感覚で謎を解いてゆくプロセスは上質のミステリーを読む如くスリリングです。戦後東南アジア史を知るためのテキストとしても読める、時宜にかなった一冊です。

2013年9月18日 (水)

最重度の障害児たちが語りはじめるとき

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中村尚樹著
四六判/上製/320頁/定価2310円(税込)

「言葉をもたない」はずの子どもたちの豊かな表現
 生まれたときから重い身体障害と知的障害をあわせ持つ「重複障害」と呼ばれる子どもたちのなかで、会話はもちろん意思表示もできない重度の子どもたちは、周囲のこともわかっておらず、そもそも「言葉」を持っていないと思われていました。
 八巻緩名(かんな)さんもそうした最重度の重複障害児でしたが、9歳のとき、パソコンを利用する装置によって、生まれてはじめて自分の気持ちを言葉で表現したのです。
「かんなかあさんがすきめいわくばかり」
 これがその文章でした。國學院大學教授の柴田保之先生が、わずかに動く緩名さんの右手に注目して、その動きで作動する装置をつくったところ、まったく予想もしなかった「言葉」が紡ぎだされたのでした。

重度の障害者たちの環境、そして、「人間と言葉」という問題
 この柴田先生のかかわった事例をはじめ、「言葉をもたない」と思われていた障害者たちが語りはじめるその現場を取材し、さまざまな意思表示の方法や、それをサポートする人たちの姿を、ていねい描いたノンフィクション作品です。
 日本国内のみならず、海外で行われているさまざまな手法をも紹介し、重度の障害者のおかれている現状と社会問題への考察もおこなわれます。と同時に、障害者のコミュニケーションの問題、さらには人間にとっての「言葉」というものの意味をも深く考えなおす契機を与えてくれる力作となっています。
 ぜひ広く多くの方に読んでいただきたい一冊です。

2013年9月11日 (水)

声に出して読みたい志士の言葉

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齋藤孝(さいとう・たかし)
四六判 並製 224ページ 定価1470円

生きる勇気が湧いてくる維新の志士たちの熱血の名言集。
志があれば活力が生まれ、「精神の軸」が生まれる。

●幕末維新だけじゃない「志」をもって生きること
 この本は吉田松陰をはじめ坂本龍馬、高杉晋作、西郷隆盛など幕末から維新後にかけて活躍した、いわゆる志士たちの言葉を集めて、著者が解説した本です。この時期、日本が存亡の危機に陥っていたなかで、多くの偉才、英傑が輩出しました。彼らの残した言葉には、その切迫した状況の中で、真摯に発せられたものが持つ、強さ、英知、輝きがあり、今日読んでも我々を強く打ちます。「志士」というのは論語に起源を持つ言葉ですが、自分ひとりの我欲や功利に陥ることなく、自分を超えた公の価値を信奉し、その実現のために生きることを選んだ人間ということでしょうか。著者は「まえがき」の中で、そう考えれば、これは維新の時代に限ることはない、現代に生きる我々も「志士」であることができるのではないかと言います。むしろ今日、混迷した時代の中で「志」をもって生きることの重要性を繰り返し強調しています。

●精神の軸を作ろう
 「志」を持つことは精神の軸を持つことだと著者は述べています。体の軸を作ることが鍛えることになるとよく言われますが、精神においても同様です。精神の軸を持ち、生きる目的を持っている人は強い。いくつかの言葉をあげてみましょう。

それ志の在る所、気もまた従う――吉田松陰
日本を今一度せんたくいたし申し候事――坂本龍馬
命もいらず、名もいらず、官位も金もいらぬ人は、始末に困るものなり――西郷隆盛
面白きこともなき世をおもしろく――高杉晋作
非常の難を救う者は、非常の行なくんば有るべからず――中岡慎太郎

面白い言葉、元気になる言葉目白押しで、いちど声に出して読んでみてください。齋藤孝氏による秀抜な解説付きで、志士たちの気分になれること必定です。

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