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2013年12月17日 (火)

異形の維新史

2017

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野口武彦・著   
四六判・上製/304頁/定価1890円(税込)

「人間の欲」から幕末維新のもう一つの姿を描く傑作小説!
『幕末気分』で読売文学賞の著者による、待望の書き下ろし

 幕末維新史といえば、徳川封建制の打倒に命を燃やす志士たちや、徳川家に殉じて最後まで抵抗して滅んでいった者たち、明治新政府の進路をめぐり対立する西郷と大久保など、「大義に生きた者たち」の姿が描かれることがほとんどですが、そういう華々しい歴史だけが明治維新なのではありません。
 時代の混沌に乗じて密かに「欲」の奔り、溺れた者たちもいました。彼らもまた「維新」という時代を構成した見過ごせないパーツといえるのです。本書はそんな正史が扱わない《異形(いぎょう)》の人物・事件から維新を捉え直す異色の歴史小説です。
 本書は、幕末と明治初期を舞台にした7つの短編からなります。
 幕末期の作品では、まず、日米修好通商条約の勅許を得るべく奔走する幕府旗本が、関白から勅許の見返りに愛娘の貞操を要求され、懊悩の末に悲痛な死を遂げる「薔薇の武士」。尊王も攘夷も関係ない、ただおのれの権力奪取にしか関心を示さない無名志士が綴った極秘文書の謎を探る「犬死クラブ」。戊辰戦争の官軍先遣隊のヤクザに襲われた名家夫人の悲しい性(さが)「軍師の奥方」。蝦夷地の海岸警備を担当する武士が漂流してきたロシアの美女との肉欲に溺れてゆく「赤毛の人魚」。
 明治初期の作品としては、岩倉使節団の船内で、士族の男が女子留学生に色事を仕掛けたとの疑惑が浮上し、伊藤博文裁判長らに裁かれる「船中裁判」。明治元年の神仏分離令にともない、仏教弾圧に奔った神道勢力の恐るべき横暴を描く「木像流血」。毒婦・高橋お伝の局部解剖に奔る明治医学界の狂騒「名器伝説」。
 どの作品も広範な史料をもとに描かれた小説で、その筆致に読者はぐいぐい惹き込まれてしまうでしょう。本書を読んでいただければ、従来の維新本がまともに取り上げてこなかった維新のもう一つの姿が見えてくるに違いありません。この冬、多くの歴史ファンに堪能していただきたい作品です。

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