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2013年12月 5日 (木)

兵頭二十八の農業安保論

2008

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兵頭二十八[ひょうどう・にそはち]

四六判上製 二八八頁 定価一九九五円

〇食糧とエネルギーをめぐるリアルな危機とは?
 TPPの関税(撤廃)交渉の進展にともない、日本の農業のあり方が問われています。去る十一月二十六日には政府が、昭和四十五年から始まった「減反」政策を五年後の平成三十年をめどに廃止することを決めました。農家に自由競争を促し、農業を成長産業に育てることがその狙いの由です。もとより、いかなる国家であれ国民の生命に直結する農業(食糧)問題は安全保障のカナメであり、しかもいまや農業も漁業も〝石油漬け〟ともいうべき状況にあり、したがってこれをエネルギー問題と切り離して考えることなどできず、その場しのぎの施策では将来に禍根を残すであろうことは間違いありません。
 本書は、農業・食糧問題をめぐって、いま現在の日本に確実に切迫する危機とは、「(石油の涸渇により、世界各地の油田で掘削の採算点を下回ることから)国際石油取引価格がコンスタントに上昇することで日本がついに食料を生産も輸入もできなくなる」こととみる兵頭氏が、これにたいする農水省、防衛省の方策を鋭く批判するとともに、東西の歴史、安全保障にかんする広範な知識をもとにして、食糧危機に備えた独創的なプロジェクト=「農地リース事業」スキーム(第5章で詳述)を提案、民活と制度イノベーションでこれを推進せよと説いたものです。
 農業・食糧問題を安全保障面から正面切って取り上げたアプローチが新鮮であると同時に、日本の農業が大転換点を迎えたいま、その未来を展望するうえでも、まことに時宜にかなった一冊であろうと思われます。

〇独居老人が不作付け地を管理する「予備畑」構想
 さて、兵頭氏の提案する農業プロジェクトとはどのようなものか。氏はまず古代ギリシアまでさかのぼって、古来、食糧が〝武器〟となってきたことから説き起こし、両大戦期の英国がドイツのブロケイド(独潜水艦による貨物船撃沈作戦)をしのいで飢餓化を免れたことを取り上げ、英国の「予備畑」に着目します。「予備畑」とはふだんは牧草地だが食糧有事には一年にして畑に変えることができる農地のこと。英国はこれを国土の半分近く確保していたおかげでドイツの作戦に対抗できたのであり、むろん英国に比べて日本の耕作可能地は圧倒的に少ないにしても、ここに日本人が学ぶべきヒントがあるとします。そして、そこから発想して氏は日本版「予備畑」を構想するのです。
 すなわち、現在の不作付け地を日本の「予備畑」と位置づけ、そこに建設費百万円の住宅(兵頭氏は低コストを意味する「Lo〈ロー〉基準住宅」と命名)を建て、今後ますます増えると予想される独居老人に貸す。借り手は竹木を繁茂させないよう土地を管理し、食糧有事に際してはこれを畑に変える。これが高齢化社会における弱者(独居老人)のためのセーフティーネットともなる、兵頭氏提唱の「農業リース事業」スキームです。
 ここでは百万円住宅の建築資材にいたるまで、きわめて具体的に構想されており、一読、関係者にはただちに実現化の検討を始めてもらいたいほどの内容。このたびのTPPを奇貨として、日本の農業の将来を明るいものへと向かわせるための、水先案内たり得る画期的な提案であり、たんなるアイデアとして看過されないことを切に願うものです。

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